■業界の概要
■市場の動向と展望
■セメント製造業の業績動向
■セメント二次製品製造業の業績動向
■統計データ、関連法規・団体
■業界天気図
セメントは基礎素材、二次製品は用途別の加工材という関係にあり、需要は公共投資や建設需要に左右される。原料の石灰石は国内自給可能である一方、焼成用燃料の石炭は輸入に依存しており、燃料価格が上流工程に影響し、そのコストが二次製品価格にも波及する構造となっている。
収益構造は(1)セメント製造・販売、(2)二次製品(生コン・プレキャスト製品)製造・販売、(3)輸出、(4)廃棄物処理などの環境・リサイクル事業に分類される。とくに二次製品は付加価値が高く、地域需要に密着しているため、セメント単体に比べ収益安定性が高い。
一方で上流のセメント製造は設備産業であり、稼働率と燃料コストに左右されやすい。石炭価格の変動は製造コストを直接押し上げ、さらに輸送費が輸出収益を大きく左右する。
セメント需要は、高度経済成長期におけるインフラ整備・都市開発の拡大を背景に急成長し、1990年度に約8,628万トンとピークに達した。その後は公共工事縮小や住宅着工減少により減少し、近年はピーク比で6割減にまで低下している(セメント協会)。この需要減少は生コンクリートやコンクリート製品といった二次製品にも連動して波及している。
一方、セメント生産能力は急減できないため、余剰分は輸出に振り向けられ、2024年の輸出量は全販売量の約20%規模に達している。輸出市場は主にアジア・オセアニアであり、都市化の進展により一定の需要が存在する。
今後の需要動向では、橋梁・トンネル・港湾などの補修・更新が継続的に発生し、防災関連や老朽化インフラの更新需要が、コンクリート製品や生コン需要を下支えすると見られる。海外市場ではアジア・新興国の都市化に伴うインフラ投資がセメントやプレキャスト製品などの需要拡大につながることが期待されるものの、同地域は供給過剰で価格競争が激しいことから、国内市場縮小を補う代替市場としては不安定感がある。
また、環境・リサイクル事業において、セメントキルン(焼成窯)では廃プラスチックなどが燃料として利用されており、廃棄物処理とエネルギー回収を兼ねた循環型モデルの構築を目指している。各社は、低炭素コンクリートや高耐久コンクリートなどの高機能製品の開発を進めており、ライフサイクルコスト低減や環境負荷低減の観点からの採用が広まりつつある。
セメントメーカーは、国内需要の縮小を背景に、統合再編が進んでいる。1994年に住友セメントと大阪セメントが合併し「住友大阪セメント」が誕生したのに続き、1998年には秩父小野田と日本セメントが合併し、「太平洋セメント」が発足。2022年には宇部興産(現:UBE)と三菱マテリアルがセメント事業を統合し「UBE三菱セメント」が発足し、大手3社体制へ集約された。
また、化学メーカーではノンコア事業としてセメント事業からの撤退も見られ、デンカは2023年にセメント販売事業を太平洋セメントへ譲渡し、生産は2025年6月に終了した。
生コン業界では地域単位での協同組合化や統合が進み、過当競争の緩和が図られている。プレキャスト製品分野でも、需要減少と競争激化により中小企業の淘汰が進行している
セメント製造は、石灰石の焼成過程でCO2を大量に排出する。 とくに石灰石(炭酸カルシウム)の分解反応(脱炭酸)により発生するCO2排出量は、製造プロセスにおける総量の約6割を占める。また、エネルギー由来の排出量も大きく、高温焼成のための燃料燃焼におけるCO2排出量が総量の約4割を占める。脱炭素化投資が進む中で、省エネや代替原料、CCUS(二酸化炭素(CO2)回収・貯留)の導入が重要課題となっている。
近年ではカーボンニュートラル政策の強化により、企業には排出削減計画の策定や開示が求められている。CO2排出量削減のための設備投資や代替燃料利用はコスト増要因となる一方、技術革新を促し、廃棄物処理機能を活かした環境事業としての収益源にもなり得る。脱炭素化への取り組みの巧拙が、今後の競争力を左右する。
「国内市場縮小+海外低採算+環境投資増」という三重の制約の中で、各社は事業モデル転換が求められている。上流におけるセメント製造のコモディティ化に対して、下流では加工・地域密着型事業を組み合わせることで収益安定化の鍵となることが期待される。