■業界の概要
■市場の動向と展望
■ガス業の業績動向
■統計データ、関連法規・団体
■業界天気図
ガス業界は、天然ガスや液化石油ガス(LPG)などを調達・製造し、家庭、事業所、工場、発電所などへ供給・販売する。中心となる都市ガス事業は、LNG(液化天然ガス)受入基地などで原料を気化・熱量調整したうえで、道路下などに敷設した導管を通じて需要家へ供給する。
制度上は、需要家にガスを販売する「ガス小売事業」、導管を維持・運用してガスを輸送する「一般ガス導管事業・特定ガス導管事業」、LNG基地などでガスを製造する「ガス製造事業」に区分され、各事業はガス事業法に基づく登録、許可または届出の対象となる。
都市ガスは、導管網で規模の経済が働くことから、人口密度や産業集積度の高い都市部を中心に利用されている。しかし、供給可能区域は国土面積の約6%にとどまり、全国の導管網も電力網のようには一体化されておらず、港湾部のLNG基地を起点とする地域別ネットワークとして形成されている。
経済産業省によると、需要家数は料金請求の対象となる調定数ベースで約2,874万件(2026年6月時点)、市場規模は約3.9兆円(2024年実績)であり、家庭生活と産業活動の双方を支える基幹インフラである。
一般ガス導管事業者は189事業者(2026年3月時点)であり、大都市圏では東京瓦斯、大阪瓦斯、東邦瓦斯、西部ガスなどの大手事業者が高いシェアを持つ一方、多数の地方都市ガス会社が地域密着型で供給を担っている。都市ガス需要は、コロナ禍で一時的に落ち込んだが、その後回復途上にある。
日本の都市ガス事業は、1872(明治5)年に横浜でガス灯が点灯したことを起点とする。当初は石炭を原料としてガスを製造し、照明用として供給する事業であったが、電灯の普及後は調理、給湯、暖房などの熱需要へ用途を転換した。
その後、原料は石炭から石油系原料を経てLNGへ移行し、工業炉、ボイラー、コージェネレーション、ガス空調など産業・業務用途へ市場を広げてきた。導管についても、鋳鉄管や鋼管から耐震性・施工性に優れるポリエチレン管への更新が進められ、都市インフラとしての安全性と災害対応力が高められてきた。
ガス業界にとって転機となったのは、1995年に始まった小売規制の緩和である。同年、年間契約量の大きい工場などを対象にガス小売が自由化され、その後1999年、2004年、2007年と対象範囲が段階的に拡大された。2017年4月には家庭や小規模事業者を含むすべての需要家について都市ガス小売への新規参入が自由化された。現在は、大手都市ガス会社、地方都市ガス会社、自由化後に参入した新規小売事業者が競争する市場構造へ移行している。
さらに、2022年4月には導管利用の中立性を高めるため、東京瓦斯、大阪瓦斯、東邦瓦斯の大手3社の導管部門が法的に分離された。
ガス会社の収益源は、家庭・業務・工業向けのガス販売を中核として、導管利用に伴う託送料金、電力販売、LPガス販売、ガス機器販売、設備工事、保守サービス、エネルギーマネジメントなどから構成される。
小売事業では、使用量に応じた従量料金と契約に基づく基本料金が主な収入となり、家庭向け需要は気温や季節の影響が大きく、特に冬季の給湯・暖房需要が販売量を左右する。
一方、販売量に占める構成比が大きい工業用需要は、製造業の生産活動、工場の稼働率、設備投資、燃料転換の動向に影響される。近年は都市ガス各社が電力小売にも参入し、ガスと電気のセット契約によって顧客単価の向上と解約抑制を図る動きが一般化している。
利益面における最大の変動要因はLNG調達価格であり、国際需給の動向、原油価格や為替相場、地政学リスクの影響を受ける。LNGの価格変動をガス料金に反映させる「原料費調整制度」により一定程度は料金へ転嫁されるものの、反映時期のずれから短期的な業績変動が生じる。また、導管事業は託送料金を収益源とする一方、導管の敷設・更新、耐震化、漏えい検査、緊急保安などの固定費負担が大きい。
そのため、需要密度や設備稼働率、原料の調達ポートフォリオ、料金改定、業務効率化などが収益性を決定する主要因となる。
ガス業界にとって、今後の市場拡大に向けては、安定供給を維持しながら低炭素化・脱炭素化を実現するトランジション需要の取り込みが焦点となる。
2025年2月に公表された「第7次エネルギー基本計画」では、2040年度の電源構成における再生可能エネルギーの割合を40~50%と見通している。そこでは、天然ガスは化石燃料の中で温室効果ガス排出量が相対的に少なく、石炭・石油からの燃料転換を通じて環境負荷の低減に寄与する。また、再生可能エネルギーの出力変動を補う調整手段としても位置付けられる。そのため、高効率ガス設備、コージェネレーション、地域冷暖房、分散型電源、BCP対応設備などのエネルギー源として需要増加が期待される。
さらに、中長期的には、水素と回収した二酸化炭素(CO2)から製造する合成メタン(e-メタン)が成長領域となる。第7次エネルギー基本計画では、e-メタンが都市ガス分野の脱炭素化を支える重要な技術として位置付けられている。
e-メタンの利点は、既存のLNG基地、タンカー、導管、ガス機器などを活用できる点であり、インフラ全体の置換を抑えながら脱炭素化を進められる可能性がある。また、電力・ガス小売自由化を背景に電気とのセット販売が広がる中、再生可能エネルギー、蓄電池、住宅設備、見守りサービスなどを組み合わせた総合エネルギーサービスへの展開が期待される。
電化が難しい高温熱需要を持つ工場への低炭素燃料供給や省エネ支援も、ガス会社の技術・顧客基盤を生かせる市場となる。
ガス業界の課題としては、国内需要減少への対応、海外依存度の高い原料調達リスク、脱炭素化投資やインフラ維持負担の大きさが挙げられる。
需要動向では、都市ガス販売量は工業用需要の比率が高く(2025年度:57.3%)、その動向が業界全体に大きな影響を与える。一方で、省エネルギー化や生産効率向上により、単位生産量当たりのガス使用量は抑制される傾向にある。さらに一部では電力や再生可能エネルギー、水素系燃料への転換も進んでおり、工業用販売量には中長期的な下押し圧力がかかっている。
また、国内で使用するLNGは大半を輸入に依存している。輸入上位国は豪州やマレーシアで、中東依存度は10%超であるが、国際価格の急騰、為替円安、産ガス国の供給障害、海上輸送路の混乱などが調達原価と安定供給に影響を及ぼす。
地方都市では人口減少や世帯減少が進む一方、インフラ産業として、導管、ガスメーター、保安設備は需要が減っても維持する必要があり、需要家1件当たりの固定費が上昇しやすい。さらに、導管工事、漏えい検査、設備管理、緊急保安を支える技能人材の高齢化・不足も深刻な問題となっている。
脱炭素化では、日本ガス協会が「2030年度に都市ガス供給量の1%をe-メタン・バイオガスとする」「2050年には都市ガスの大部分をカーボンニュートラルガス化する」という目標を掲げている。e-メタンについては、すでに導管注入・都市ガス利用の実証が進み、一部では実利用が始まっている。しかし、製造コスト、再生可能電力の確保、CO2の調達、炭素会計上の取り扱い、海外サプライチェーン構築などの課題が残る。安全・安定供給を損なわず、料金負担を抑えながら巨額の脱炭素投資を進めることが、業界最大の経営課題となっている。