■業界の概要
■市場の動向と展望
■地上波テレビ放送業の業績動向
■衛星放送業、CATV業、ラジオ放送業の業績動向
■統計データ、関連法規・団体
■業界天気図
総務省の「民間放送事業者の収支状況」およびNHK 財務諸表によると、2022年度の放送事業者の売上高合計は、3兆7,158億円、前年度比0.8%減となり、2年ぶりに減少に転じた。
内訳は、地上系民間基幹放送事業者が同0.4%減の2兆1,623億円、衛星系民間放送事業者が同1.4%減の3,370億円、CATV 事業者が同2.2%減の4,880億円、NHK の経常事業収入が同1.1%減の6,973億円であった。NHKは3年連続の減収となった。
放送業界は、テレビ、ラジオ、インターネット配信などのメディアを通じて、広範な視聴者に情報やエンターテインメントを提供している。
報道をはじめとして公共性が高いことから、放送事業は放送法や電波法などの規制に基づく許認可事業として総務省が監督し、NHKの公共放送や民間放送が運営されている。また、放送技術はアナログからデジタルへ進化しており、ハイビジョンや4K・8Kなどの高画質化やインタラクティブなサービスなどが普及している。
民間放送局の多くは広告収入を基盤に運営されており、広告主にとっては視聴率やターゲット層が重要で、番組編成に影響を与える。
地上波では、長年の商慣行や系列制度(キー局、ローカル局)が存在し、ローカル局はキー局の番組に依存する傾向にある。広告収入の地域格差や若者層の都市圏集中による視聴者の減少、自主制作力の低下が課題となっている。
衛星放送は、広範囲にわたる送信能力や多チャンネル放送、高画質・高音質を特徴とし、スポーツ中継や音楽ライブ、映画、ドキュメンタリーなど専門性の高いコンテンツを提供する。ケーブルテレビは、光ファイバーや同軸ケーブルを利用して、多チャンネル放送やインターネット接続、IP電話などの各種サービスを提供し、地域密着型の情報提供や高品質な通信サービスが特徴である。
テレビは、若年層を中心に視聴時間が大幅に減少しているほか、広告主がテレビ広告からデジタル広告にシフトする傾向もあり、広告収入の減少につながっている。
そのため、放送局は新しい収益モデルを模索しており、インフルエンサーとの連携やSNSとの連動型広告のほか、イベント開催や国内外の企業との提携によるアニメやドラマなどIPコンテンツの開発といった、放送以外の事業収入拡大への取り組みを進めている
インターネットの普及により、放送コンテンツが国境を越えて配信され、国際的な競争が激化している。ストリーミングサービスの台頭により、Netflix(米)、Amazon Prime Video(米)、Disney+(米)、DAZN(英)などのインターネット経由のOTT(Over The Top)サービスが急速に普及し、テレビ放送視聴からオンデマンド視聴への移行が進んでいる。ドラマなど各配信サービスが制作する独自のオリジナル作品も人気が高い。
こうした、ストリーミングサービスやYouTube、TikTokなどのネット動画サービスを含め、動画配信市場の競争が激化する中、既存の放送局も自社の配信プラットフォームを強化する動きが見られる。「NHKプラス」や民放公式テレビポータル「TVer」のほか、AbemaTVなどのストリーミングサービスが人気を集めている。
コンテンツ拡大とともに視聴者のニーズは多様化しており、視聴者の満足度向上のため、AI技術を活用した視聴履歴に基づくレコメンド機能が強化され、視聴履歴や趣味嗜好に基づいたコンテンツの提案が定着している。また、広告もターゲット層に合わせた個別化が進む。
技術面では、高速通信技術(5G)の普及により、リアルタイム配信や高画質のライブ配信が可能になっており、インターネットやモバイルデバイスを活用した新しい視聴形態が定着している。従来の放送スタイルを維持しつつ、ストリーミングサービスやデジタル技術との融合がいっそう重要となっている。