■業界の概要
■市場の動向と展望
■電線・ケーブル製造業の業績動向
■統計データ、関連法規・団体
■業界天気図
電線・ケーブル業界は、電力供給や情報通信を支える重要な役割を果たしており、現代社会のインフラを支えている。
従来は銅やアルミなどの金属導体を用いて電力や信号を伝送してきたが、近年はガラスを用いて光信号を送る光ファイバーの普及により、高速かつ大容量の情報伝送分野へも裾野が広がっている。
電線とケーブルに明確な区分はないものの、物理的損傷などから保護するための外装を備え構造が複雑なものを一般に「ケーブル」と呼称する。電線には多様な仕分け方があるが、日本電線工業会では電線の具体的な用途で分類しており、①電力用電線、②EM電線・ケーブル、③通信用電線、④巻線、⑤機器用電線、⑥輸送用電線の六つに分類される。
近年は、高速通信規格「5G」に対応する電線部材やEV普及によるEV用ワイヤハーネス、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギー向けの電線、火災時の安全性を高めるための耐火・耐熱ケーブル、電力を双方向で制御・最適化するスマートグリッド用ケーブルなどの高度なニーズに対応する高付加価値製品の需要が伸長している。
国内需要は人口減少を背景として拡大を見込みにくいことから、電線各社は海外市場での成長を模索している。日本電線工業会の「海外現地法人出荷統計データ調査結果」によれば、2024年度における海外現地法人による銅電線の出荷量は66万6,657トンに達し、そのうち約9割が日本国外向けであった。とりわけ新興国では電力インフラ整備、先進国では再生可能エネルギーやEV関連、データセンター向けなどで需要が拡大しており、日本メーカーの高品質・高信頼性技術が強みを発揮している。
電線・ケーブル業界は、主原料となる金属の国際市況に大きく左右される構造的な課題を抱えている。主原料である銅やアルミは価格変動が激しく、特に銅はLME(ロンドン金属取引所)の相場に強く依存する。2021年以降は世界的な脱炭素投資や新興国の需要増を背景に高値が続き、収益を圧迫する要因となっている。加えて、埋蔵量はチリやペルー、カナダといった特定地域に偏在しており、地政学リスクの影響を受けやすく、安定的な調達体制の構築が業界全体の急務となっている。
さらに、環境規制強化への対応も重要な課題である。製造工程での二酸化炭素排出削減やリサイクル対応への投資が求められ、中小規模の事業者にとっては負担が大きい。労働安全衛生法に基づく化学物質管理の厳格化も進んでおり、対応が不十分だと行政指導や罰則の対象となる可能性があり、企業経営に直接的な影響を及ぼすリスクが高まっている。