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M&Aの仲介業者は、企業が集中する東京に圧倒的に多く、情報も東京に集まってくる。その中で、大阪に拠点を置き、中小企業に特化したM&Aを手掛けるのが株式会社オンデックである。

同社は、2005年7月に大阪で創業。2008年9月のリーマン・ショックでM&A国内市場が停滞した間も、関西圏を中心に再生型のМ&A案件などを中心に実績を積み重ね、2020年12月に東証マザーズに上場を果たした。地方におけるM&Aを成功させるためには、「経営者や士業などの支援機関のM&Aリテラシーの向上が重要」と語る同社の久保良介社長に、その背景を聞いた。

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代表取締役 久保 良介 氏

―中小企業に特化してM&Aを展開されています

M&Aは規模別に、ラージ、ミドル、スモール、マイクロに分類できます。当社は2005年に創業し当時はミドルキャップ、スモールキャップ、および年商1億円未満のマイクロキャップまでのレンジを顧客層としていました。

現在は、マイクロキャップの取り扱いは減少し、ミドルキャップ、およびスモールキャップ、年商規模でいうと数億円~数十億円規模の小規模・中小企業層をメインの対象としてサービスを展開しています。

―創業時のМ&Aをめぐる状況は

2000年代当初は、M&Aに対する社会の理解がまだ乏しく、特に中小企業の経営者は、自分にはM&Aは関係ないという考える方が多い状況でした。しかし、少子高齢化が進む中で社長の年齢は年々高齢化していきます。それらの企業の事業承継問題が深刻化する中で、M&Aは中小企業においても徐々に広がりを見せてきました。

日本経済が高成長を持続していけば中小企業もそのまま成長を続けられるでしょうが、成長が鈍化している状況では難しい。人口減少の中で、企業集約による生産性向上も不可欠です。そうしたことから中小企業のM&Aが市場として伸びると考え、取り組んできました。

―人口動態から見ても企業集約は不可避といえますね

近年は中小企業においても企業買収の事例を目にする機会が飛躍的に増え、M&Aに対する認識は大きく変わってきています。中小企業のМ&Aに対するニーズも広がってきました。特に2014年頃から、事業承継問題の解決策としてM&Aへの認知度や関心が、加速度的に高まっていった印象です。

その背景には、後継者難や経営者の高齢化問題に対して、中小企業庁をはじめとする政策面での支援強化という追い風がありました。全国での事業引継ぎ支援センターの開設や各種支援制度のプロモーションなどの取り組みから、中小企業側から見ても、行政が積極的に後押ししているという安心感があったはずです。

―しかし、現実には危機意識をもっていない経営者が多いようです

70代、80代で後継者が決まっていない経営者が現役で働き、ご本人には年齢の自覚がないというケースは珍しくありません。「先送りせず、今すぐ動いたほうがいいですよ」と思う事は多いです。事業承継M&Aの動向は、国の課題にも直結します。もっと危機意識が必要です。

―M&Aは最後になかなか社長の決断がつかないということも聞きます。中小企業になるほどその傾向があり、ビジネスライクに決断できないという側面もあるのでは

以前は、M&Aの準備を進めながらも、内心ではやらない理由を探しているという方も見受けられました。しかし、今ではその感覚も薄まっているのではないでしょうか。

肌感覚としては、10年前と比べると明らかに変わってきており、事業を継続するために、良い意味でビジネスライクに決断される方の割合が増えています。

―新型コロナの影響はいかがでしょうか

リーマン・ショック時と比較すると、上場株式市場において株価が下落せず、むしろ上昇した、という大きな違いがあります。中小M&Aの価格決定においても、少なからず上場市場の影響を受けますし、資金供給環境も潤沢であったことなどがM&Aの活況の維持につながったと思われます。

また、実際の業績の面でも、好調な業種は好調さを維持しており、コロナショックの影響を直接的に受けた限定的な業種を除いて、M&A市場の停滞は見られませんでした。

当社においても、行動が制限されることによるクロージングまでの所要期間の長期化はあったものの、新規の受託案件を積み上げていくことができました。

一方で、コロナ禍で企業戦略に変化が見られます。これまでは成長戦略として「選択と集中」でコアの部分を強化・集中しようという方向性が強かった。しかし、新型コロナのダメージは全方向(全業種・全チャネル)ではなく、特定の業種やチャネルに対して深刻に影響しました。コア事業がひとつに絞られていると、有事にそれがダメになると企業としては致命傷です。

そこで「選択と集中」から「分散」という方向が注目されています。いわば、BCP(事業継続計画)の一環とも言える面がありますが、収益を得る事業や流通チャネルなどをひとつに絞るのではなく、分散しておこうという経営者が増えたように思います。

具体的には、対面販売が主軸だった企業が、EC事業を買収するというような事例です。必ずしもまったく異業種の事業を買収するという形のみならず、別の販売チャネルや流通チャネルを持つというように分散化する変化が見られます。

―買い手企業のニーズとして人材確保の目的もあると聞きます。人手不足の業界はM&Aが活発といえますか

業績やビジネスモデルは二の次として、人材獲得を最優先という買収ニーズはあります。慢性的な人材不足の業界、例えば介護や物流、IT業界などはその典型例で、この傾向は人口減少が進む限りは変わらないでしょう。

後編に続きます。

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