中小企業の事業承継手段としてM&Aの活用が広がる一方で、昨年来、M&A成立後に買収先の現預金を引き出したり、当初の契約に反して前経営者の個人保証を外さないまま連絡を絶ったりというような、不適切な事例やトラブルが顕在化し、社会問題となっている。
そのため、中小企業庁は2024年8月に「中小M&Aガイドライン」を第3版へ改訂し、M&A事業者に対する規制を強化したほか、同年10月には不適切な買い手企業との仲介を行ったM&A支援登録機関15社に対して是正指示を出した。さらに、2025年1月には初めてM&A支援登録企機関1社の登録を取り消し、同6社に対しても是正指示を出している。
こうした中、いかにして安全なM&A環境を実現するか、業界の自主規制団体である「M&A支援機関協会」(以下、協会)の動向が注目されている。同協会の代表理事である荒井邦彦氏(ストライク社長)に、協会の取り組みを聞いた。
■悪質な買い手企業撲滅に向けた取り組みを厳格化
■「自主規制ルール」に有識者など外部の視点を取り入れる
■幅広い知見やスキルが求められるM&A、資格制度の導入は必要
■自社の「企業価値」を高めることが、悪質な買い手への防衛策に
■M&Aは、中小企業の生産性向上や地域創生の一翼を担う
2025年1月に、協会の名称を「M&A仲介協会」から「M&A支援機関協会」に変更しました。協会の会員を従来の仲介事業者だけではなく、フィナンシャルアドバイザー(FA)や、M&Aプラットフォーマーなど、金融機関、士業などM&A支援に関わる事業者全般に広げ、より開かれた自主規制団体とするための取り組みを進めています。
すでに2024年10月からは、悪質な買い手企業撲滅への取り組みとして、そうした企業の情報を共有する「特定事業者リスト」制度をスタートしています。
今年2月には中小企業庁から「不適切な譲り受け側に係る情報共有の仕組みについて」が公表されたため、これに準拠する形で同制度の内容を改訂しました。新たに特定事業者リストに自動で登録される要件を定め、登録までにかかる期間を短縮したほか、登録期間を最低10年間に延長するなど、内容を大幅に厳格化しています。
「特定事業者リスト」は、支援機関が買い手企業に対して審査を行ってもなお、すり抜ける企業がないかどうかをチェックするためのリストです。このリストに掲載される事業者は何らかのトラブルが判明した後に掲載されるため、運用はあくまで事故後の対応です。
最も大事なのは我々支援機関が、売り手企業に対して紹介するにふさわしい買い手企業かどうか、しっかりと審査し見極めることであって、「特定事業者リスト」でのチェックは最終手段と考えています。
リストへの登録事由は、協会ホームページでも公開しており、支援機関は、買い手企業に対して「登録事由に該当する場合は協会に情報共有する」という契約を発効させたうえで、成約する必要があります。