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デジタル化の進展やIoT・AI の普及にともない収集された膨大なデータを、経済活動や社会課題の解決に向け活用する動きが加速化している。データがあらゆるベースとなる「データ駆動型社会」の到来である。

そこで重要性が高まっているのがデータを処理分析し価値を引き出す「データサイエンス」であるが、米国や中国など海外と比較し人材不足が明らかになっている。日本が競争力を維持し、持続可能な成長を遂げる社会を実現するために、人材をめぐりどのような取り組みが必要だろうか。

■高まる高度人材需要

政府が提唱する新しい未来社会「Society5.0」では、IoTがあらゆる産業分野や日常生活に取り入れられ、そこで収集したビッグデータをもとに人工知能(AI)を駆使して生み出される様々なサービスが、社会構造や人々の生活を劇的に変化させるとしている。

その実現のため、AIの開発・実用化やデータ分析・活用などに精通した高度人材のニーズが拡大している。しかし大学や企業の人材育成・供給が追いついていないのが現状だ。

■教育改革の取り組み

これからは競争力ある製品やサービスの開発のために、幅広い人材がAI や数理などの基礎知識を持つことが求められる。デジタル社会である21世紀型のスキルといえる。

そのため、教育の改革が始まる。2020年度以降に全面的に実施される新学習指導要領では、小中学生が基礎的学力や情報活用を学び、高校では文理を問わず数理・データ関連教育を受けることになる。大学では理系文系問わず、AI、数理、データサイエンスなどのリテラシー教育が実施される。学部横断型のプログラムや、将来的にはMOOC(公開オンライン講座)などを活用し、柔軟な仕組みも期待される。

さらに大学では、実務人材強化に向けて、応用力のある専門人材を年間25万人育成する。そのうえで、先端研究を行うエキスパート(2,000人)・トップクラス(100人)の育成を目指す。2017年4月に滋賀大学が国内で初めて専門学部としてデータサイエンス学部を設置したのに続き、2018年4月に横浜市立大学が、2019年4月に武蔵野大学がそれぞれデータサイエンス学部を創設した。これらの大学では企業や自治体との共同研究など産学連携も活発に進めている。

■ビジネス現場での人材育成

変化が加速するなか大学教育による人材供給の前に、ビジネス現場における既存人材の教育・最適配置も課題だ。現在は少数の人材を奪いあっている状況である。

IT エンジニアやミドルマネジメント層など各分野でコアスキルを持った人材に、スキルセットを意識して、再教育などを通じて自己能力を伸ばしてもらうことが求められる。そこで社会人向けのリカレント教育の充実・推進も必要だろう。

技術革新はビジネスにおける戦い方をどんどん変えている。データ× AI から新たな価値をいかに生み出していくかが勝負になっており、競争相手は同じ業界の企業だけではない。これからは、採用システムや人材育成モデル、報酬体系も大きく変わってくるだろう。こうした過程で経験や知見が蓄積され、人材の流動化を通じてデータ活用をめぐるイノベーションが起こることが期待される。

変革期の今、データ分析・活用をめぐって現場ではどのような変化が起きているのか、次記事のインタビューで紹介する。

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