TDB REPORT ONLINE

M&Aを希望する売り手企業と買い手企業をオンライン上で引き合わせるM&Aマッチングプラットフォーム。M&Aにおいて最も手間が掛かると言われる「マッチング」の時間とコストを大幅に削減し、後継者難にある中小企業の第三者承継を促進するものとして、期待が高まっている。

2011年に国内初のマッチングプラットフォーム「TRANBI」を設立したのは、長野県にある工業資材メーカーのアスク工業(株)。代表の高橋 聡 氏が、外資系コンサルティング会社で活躍した後に家業の同社を承継し、新規事業として立ち上げたものだ(現在は関係会社の(株)トランビが運営)。

マッチングプラットフォームを通じて小規模事業のM&A支援にいち早く取り組んできた高橋氏に、国内スモールM&Aの現況と見通しについて聞いた。

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代表取締役CEO 高橋 聡 氏

―2021年の国内M&Aの動向はいかがでしょうか

新型コロナ感染が拡大した2020年4月以降、当社が扱うスモールM&Aは、動きが停滞していました。

取り扱っている案件の大半が小規模なものなので、コロナによる影響は大きかったです。買い手側の利用者には個人も多いのですが、資金力の少ない個人事業主が苦しくなり、逆に売り手に回るという現象も見られました。

そのため、買い手側における法人の比率が高まりました。中には逆に「コロナだからこそ攻める」という企業もありました。

―業種別に見た場合の特色はありますか

観光業はじめ、コロナにより本業が不振に陥った企業が新しい事業の柱を求めるようになり、その手段としてM&Aが使われることが増えました。

製造業とサービス業では、後者の比率が高いです。製造業はどちらかというとマッチングプラットフォームへの登録には消極的で、同業者や取引先など業界内のリアルなコネクションを通じて買い手を探すことが多いようです。オンラインで買い手を探そうとする動きはまだ少ないですね。

―サイトに掲載されている成約事例を拝見すると、株式譲渡だけでなく、事業譲渡も目立ちますね

感覚としては、全体の7~8割が事業譲渡です。

会社丸ごとではなく、一事業だけを譲渡したいというニーズは多いです。譲渡金額も数百万円規模が多いので、M&Aが成立しやすいですね。

買い手側のニーズとしては、新規事業として異業種に参入するための買収が多いです。自分で一から始めるよりも既存の事業を買ったほうが、早いし成功率も高いからです。

―事業承継問題を抱える高齢の経営者はM&A、とりわけオンラインでの売却というものに対して抵抗感が強そうです

高齢の経営者がご自身で直接登録されることはやはり少なく、金融機関、M&A仲介業者などの支援機関や、会計士、税理士などの専門家による代理登録が多いですね。当社は2021年7月から事業承継・引継ぎ支援センターとデータベース連携していますので、そちらを通じた登録もあります。

高齢の経営者は、やはりM&Aそのものに対する理解が十分にされず、事業継続可能な企業の多くが廃業してしまっています。

現在の全国の休廃業・解散件数は、年間5万件くらいです。M&Aが判明しているもので年間約5,000件、非公表分を含めて倍の1万件あると仮定しても、大半が廃業してしまっているわけです。

それをどうにかするために、私は「廃業前に一度、買い手に見てもらう」というプロセスを経ることが非常に重要だと考えています。

―小規模企業では、自社に買い手がつくことに懐疑的な経営者も多いようです

一般に、M&Aは売り手が買い手を探すものというイメージを持たれています。しかし本来ベクトルが向いているのは、買い手から売り手に向かってです。

なぜなら、M&Aによるシナジーバリューを判断できるのはあくまで買い手であり、企業の価値は「買い手が決めるもの」だからです。

ですので、事業承継を望んでいる企業が「うちには買い手が付くような価値はないから」と勝手に判断して廃業してしまうのは、非常にもったいないことなのです。

事業承継を進め廃業を減らすためには、企業が廃業前に買い手の評価を受ける機会を作ることが重要です。それを担うのがマッチングプラットフォームです。

従来のM&A仲介事業では、売り手が買い手を探すことに非常にコストがかかりました。仲介事業者のコストの8割はマッチングに要していると言われています。

マッチングプラットフォームはその部分を非常に低コストで実施できる。小規模事業者にもM&Aによる事業承継の可能性が広がっているのです。

―オンラインでのやりとりにはリスクもありそうです。貴社ではどのような対策をとられていますか

トランビでは、1件の売り案件に対し、平均15件の引き合いがあります。非常に多くの買い手と接触できるのです。

ただし、その相手が信頼できる相手なのかをどうやって判断するか。この点は創業以来10年かけていろいろな取り組みを行い、徐々にレベルアップしてきました。

買い手に対しては、免許証・保険証などの本人確認書類の提出を依頼し、存在確認を行っています。法人の場合はこれに加えて履歴事項全部証明書の提出依頼と、あと反社チェックも行っています。

逆に、「売り案件が実際には存在しない」リスクもあります。これに対しては申請後に審査を行い、それをクリアしたものだけをサイトに公開しています。また、サイト内から帝国データバンクの信用調査報告書を取得できるサービスも開始しました(図表1)。

図表1 TDB×TRANBI連携サービス

図表1_TDB×TRANBI画像.png 図表1_TDB×TRANBI画像2.jpg

―他にはどのような仕組みがありますか

あとは保険です。有料の「プレミアムメニュー」に加入されたお客様には、秘密保持契約締結後の情報漏洩や、デューデリジェンス後に不備が発覚した際に弁護士相談費用が保証される保険がプランごとに適用されます。

NDA情報漏洩保険
M&A後押し保険

当社が扱うのは小規模なM&Aですが、それでも売買額は数百万円になります。M&A件数は右肩上がりですので、保険業界からも有望市場と見られているようです。当社への提案も増えています。

―マッチングプラットフォームの数も急増しています。その中での貴社の差別化ポイントはなんですか

我々自身が中小企業であり、「中小企業による、中小企業のためのプラットフォーム」という点が一番のポイントです。経営者自身が主体性を持って売り手、買い手となり、他社と結びついてシナジーを生み出し、良い経営を目指していくための場を作る。この発想は当社独特のものだと思います。

―成約手数料ではなく、月額制の会員システムを取っておられる点もユニークです

M&Aが成立したときに手数料を頂くという点のつながりではなく、登録企業が継続的に経営を改善していくためのプラットフォームにしていきたいという考えから、このようなシステムに変更しました(なお、売り手側の登録は無料 図表2)。

M&Aマッチング以外にも様々なメニューを設けて、経営者のスキルアップにつながるプラットフォームと位置付けています。

図表2 TRANBIの料金システム

図表2_TRANBI料金システム.JPG

―そのようなお考えに至った理由はなんですか

当社は国内初のM&Aマッチングプラットフォーマーとして、「誰でもM&Aができる」環境づくりに注力してきました。ですが、その環境を利用して「経営を改善できた」という企業はまだ少ないと感じています。

企業を買収した後にどんなシナジーバリューを生み出せるか、どのように事業にテコ入れしていくか。そうした大きなビジョンを描けるような経営者を増やしていくためには、マッチングだけで終了していてはだめだと思いました。

M&Aで事業承継を推進するだけではなく、もう一歩進んで、中小企業経営者の経営スキルを上げていくという発想が必要です。「TRANBI」にも、そのためのコンテンツを拡充していく考えです(図表3)。

図表3 TRANBIの各種メニュー

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後編に続きます。

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