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2018年に公表された経済産業省「DXレポート」で「2025年の崖」が取り上げられ、デジタル人材の大幅な不足が見込まれることが明らかになった。国が危機感を露わにするなかで、自治体も独自にデジタル人材の育成支援に乗り出している。

約25万社の中小企業を擁する東京都もデジタル人材の育成支援の強化を打ち出し、新たに2022年度から経営者・リーダー層および従業員層に向けたデジタル人材育成の支援制度を開始している。

中小企業の人材育成支援政策に携わる、東京都 産業労働局 雇用就業部 能力開発課の中林政博氏に、新制度の内容や動向を聞いた。

- DXの必要性が叫ばれるなかで、東京都は中小企業のデジタル人材の育成支援にどのような方針で取り組んでいるのでしょうか

東京都では、五年ごとに「東京都職業能力開発計画」を策定しており、2022年3月に第11次計画を公表しました。2021(令和3)年度から2025(令和7)年度の5カ年にわたるこの計画において、「デジタル人材プロジェクト」として、年間一万人の確保・育成を目指しています。

- その中で、2022年度から新たに開始したDX 人材育成制度についてお聞かせください

ひとつの大きな柱が、従業員が民間講習を受講する際の「DXリスキリング助成金」です。これは、eラーニングなども含めたDX 関連の講習受講が広く対象となります。じっくり学ぶため訓練時間は20時間以上、助成率は対象経費の3分の2です(1企業あたり上限額64万円)。(注:2022年度の申請受付は2022年12月終了)

2022年5月から複数回に分けて申請募集してきたこの助成金は、「こういうことを学びたい」という明確な目標や目的がある方が利用しやすい制度です。

もうひとつの柱は、中小企業の経営者やリーダー層を対象に、2022(令和4)年度から新たな支援制度として開始したのが「DX人材リスキリング支援事業」です。

以前から中小企業からは「DXが何かよくわからない」、「何から手をつけていいかわからない」という声が上がっていました。

そのため「東京都職業能力開発計画」の策定過程では「中小企業の経営者や現場リーダーが、DX に対する理解を深めることが重要」という考えのもと、経営者層などに向けたパッケージ型の一体的な支援を行うことになりました。

リスキリング事業案内.jpg

- 初年度の事業はどのように展開されているのですか

「DX 人材リスキリング支援事業」の場合、参加企業募集前に5~6月にかけて事業内容を説明する普及セミナーを、オンライン、オフライン含めて5回開催しました。そこでは「DX とは何か」という基本的な考え方のほか、DX 推進には経営者自身の変化や推進力が不可欠である点をお伝えしました。セミナーにはアーカイブ視聴も含めると1万人を超す大変多くの方に参加いただき、最終的に応募いただいた企業から約250社を選定させていただきました。

1社あたり2名程度支援可能としており、無料で支援させていただいています。

応募の際、自社の課題や目的などを洗い出していただき、採択後には参加者に自身のデジタルスキルや知識がどの位置にあるかを理解してもらうために、民間のデジタルスキル診断を受けていただきました。

デジタルスキル診断結果と、課題をふまえた計画書をもとに、DXコンサルタントと個別面談を実施し、個々の経営課題や今後の方向性を整理します。課題解決や今後の目標に対して参加者のスキルがミスマッチにならないように、「まずはここからスタートしたほうが良い」といったアドバイスも行い、それに基づいて企業ごとに講習のカリキュラムを計画していきました。

- カリキュラムの具体的な内容はどのようになっていますか

講習はUdemy という民間のオンライン学習サービスの中から選択します。メニューが非常に多く、自分だけでは選択に迷ってしまう方も出ることが想定されたため、事前に企業としての課題ややりたいことを確認し、大分類として四つの入り口(コース)から選択してもらう形にしました。

四つのコースは、生産性向上などの「①業務効率化コース」、販路拡大などの「②集客・売上向上コース」、サービス企画など「③新商品・新サービス開発コース」、ビジネスモデルや組織マネジメントの「④経営戦略コース」です。

受講のステップとしては、まず「DX とは何か」という基本的な考え方を学ぶ必修講座を経て、次にそれぞれの選んだ目的に応じた基礎コースを受講します。さらに加えて、他のコースの講座も受講できます。例えば、「業務効率化を目指したいが、新規顧客開拓もしたい」という希望がある場合、別コースの講座も受講できます。

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