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働き方改革関連法および改正出入国管理法が2019年4月に施行され、多様な人材の確保・活躍推進、生産性向上に向けた取り組みが本格化した。しかし2020年に入り、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の流行が世界規模で発生し、企業は、規模や業種を問わず、あらたな働き方への変革を突き付けられている。こうした中、一部の企業では本社機能の恒久的な地方への移転や、従来の出社や転勤ありきの勤務体系の見直しなどの取り組みも見られる。そこで、新型コロナの影響が続く中での中小企業の働き方改革の現状から課題を探った。

1.新型コロナで人手は不足から過剰に

①労働者への影響

新型コロナが業績に与える影響は、二極化している。帝国データバンク(以下TDB)の「新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査(2020年8月)」では、プラスの影響がでているのは在宅勤務の増加や外出自粛により、スーパーマーケットなどの「各種商品小売」、インターネット接続業などの「電気通信」や「飲食料品小売」など、一部の業種に限られる。

他方、サービス業では、休業要請や時短営業を迫られた「飲食店」や「旅館・ホテル」は、厳しい局面となっている。

TDBの「新型コロナウイルスの影響による上場企業の業績修正動向調査(2020年9月30日時点)」では、業績予想の修正に関する適時開示情報を発表した上場企業のうち、新型コロナの影響を受けて、業績を下方修正した企業は、9月30日までに累計1,099社。減少した売上高の合計は約10兆980億と10兆円を超えた(図表1)。

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こうした大幅に売り上げが減少する局面において、新型コロナ前後で雇用に関する状況は一変した。2019年度下半期は人手不足による倒産は前年同期比14%増の106件あったが、2020年度上半期には65件(前年同期比26.1%減)と8半期ぶりに前年同期比で減少。企業の人手不足感は消え去り、企業は雇用の絞り込みを開始している(図表2)。

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厚生労働省の「一般職業紹介状況」では、8月の有効求人倍率(全国、新規学卒者を除きパートタイムを含む)は1.04倍と前月から0.04ポイント低下、1年前の2019年8月の有効求人倍率(同)1.59倍からは5.5ポイント低下し、2013年以来となる有効求人倍率1割れがすぐそこに迫っている。

また、総務省の「労働力調査」では、8月の完全失業率(季節調整値)は前月比1.0ポイント悪化の3.0%となっており、雇用環境は悪化している。

失業者を求職理由別にみると、「勤め先や事業の都合による離職」が前年同月比19万人増(95%増)の39万人となっている。新型コロナの影響による人員削減や倒産・廃業などの増加にともなう離職の増加が背景にある。他方、同じく8月の「自発的な離職(自己都合)」は同2万人増(2.7%増)の75万人となった。増加は小幅であるが、前年同月比では5月から4カ月連続で増加している(図表3)。

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在宅勤務の増加で転職を考える時間が増え、さらに実際に転職活動に踏み切る時間的な余裕ができたことなどが背景にあるように思われる。

②企業への影響

新型コロナとの長期戦が見込まれる中、国民のいのち、雇用、生活を守るため、第一次補正予算などで措置した対策に加え、「感染拡大の抑え込み」と「社会経済活動の回復」の両立を目指すための第二次補正予算では、雇用を守るための支援として、雇用調整助成金の抜本的拡充が図られた。

新型コロナの影響にともなう特例としての雇用調整助成金は、9月末から12月末まで延長が決定。支給決定件数(累計)は9月25日で120万件を超え、支給決定額(累計)は1兆5千億円を超えた(図表4)。

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雇用調整助成金など各種支援やGoToキャンペーンでは、トラベル、イート、イベント、商店街向けに手が打たれている。現状は、こうした政府による財政出動で倒産や廃業する企業を抑制している状況にある。

しかし、これらはあくまで内需喚起策。海外の感染状況をみると、当面は外国人観光客に門戸を開く状況にはなく、出口が見えない。

現在、雇用調整助成金や持続化給付金、GoToキャンぺーンなどの政策支援によって事業を継続できている企業の中から、今後は、廃業や倒産が増えてくることが予想され、それは失業者数の増加となって現れてくる恐れがある。

実際、TDBの「新型コロナウイルス関連倒産」(法人および個人事業主)は、全国では累計602件判明(10月12日16時現在)している(図表5)。

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優秀な人材流出を止めるために

転職サイト運営のビズリーチ(東京都渋谷区)が2020年4月に実施した調査「新型コロナウイルス感染症拡大に伴う、働き方やキャリア観・転職活動への影響に関するアンケート」によると、新型コロナの感染拡大を受けて、「転職活動に前向き」との回答が57%で最多、次に「以前は転職を検討していなかったが、今は転職を検討するようになった」(11%)が続いた。

実際、在宅勤務を導入後、若手の優秀な社員の、転職を理由とした退職が増えてきているという話を聞くことがある。

新型コロナの流行収束が見えない中、優秀な人材を維持するためには、従業員への気配り、目配りが重要性を増している。

新型コロナ前まで当たり前であった会議は三密を避けるためにWebに移行、出社は抑制され従業員同士の接触機会は減りコミュニケーションをとる機会も減少している。業務上の悩みを対面で相談をしたり、多人数での食事や飲み会なども自粛ムードにある昨今、話す機会は明らかに減少している。ハード面の取り組みだけではなく、いかに人の心をつなぎとめておくかが重要と言える。

2.新型コロナで働き方が急変する中で

2020年4月の緊急事態宣言により在宅勤務が推奨されるようになった。

宣言当時、社会は混乱。企業および従業員は在宅勤務用のノートパソコンの不足に加え、リモート環境を整えるためのソフトウエアやセキュリティ対策の検討など、ハード・ソフト両面でのインフラ準備に追われることとなった。

こうした混乱の中、企業・従業員ともに、新しい生活様式への理解と順応を余儀なくされている。

実際に、TDBの「新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査(2020年8月)」では、新型コロナの感染拡大を契機に、デジタル施策に取り組んでいる企業は75.5%と4社に3社。規模別にみると、「取り組んでいる」企業が「大企業」で88.6%と9割近くに達した一方、「中小企業」は72.7%、「小規模企業」は63.0%となった。特に「小規模企業」では「大企業」を25.6ポイント下回っており、企業規模によってデジタル施策への取り組みに差が顕著だった。また取り組んだ内容についても、大企業に比べて中小企業の遅れが見られ、両者のITリテラシーの差が浮かび上がった(図表6)。

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現時点では、新型コロナは収束の状況にはなく、感染防止策をとりながらの企業活動を余儀なくされる。

今後も、関連省庁や各自治体の支援策を適切に利用しながら、生き残りを図ることが肝要となる。弊社HPでは、「新型コロナウイルス関連支援情報」を提供しているので参照いただきたい。

今回の新型コロナの流行で、世界経済の減速は必至。国内は、少子高齢化、生産年齢人口の減少が続くなか、優秀な人材の確保・定着、生産性向上に働き方改革をどうつなげるかが重要となっている。

次の記事では、2020年9月に実施した「働き方改革に対する企業の意識調査」の結果を集計・分析している。

同アンケートは、新型コロナによって「働き方改革」への取り組みの変化などについて尋ねている。

8月調査時点では、デジタル施策で大企業に後れをとっていた中小企業であったが、9月の調査では、働き方改革の各項目において「今は取り組んでいないが今後取り組む予定」とする動きが見られる。

こうした他社の取り組み状況から、貴社の今後の取り組みを考える上での参考としていただきたい。

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