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2022年4月に東京証券取引所(東証)において市場区分の見直しが行われ、「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」の三つの新市場が誕生した。近年、IPO増加傾向のなかで、さらなる市場活性化に向けて東証はどのような視点で取り組みをしているのか。スムーズなIPO 実現のため市場関係者や企業などと広くコミュニケーションをはかり、情報発信や相談に取り組む株式会社東京証券取引所の上場推進部長、永田秀俊氏に同社の取り組みを聞いた。

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上場推進部長 永田 秀俊 氏

-2022年4月の東証市場再編についてIPO への影響は

2021年のIPO 件数は、東証プロマーケットも含めると、全体で136件、うちマザーズ市場が93件と堅調でした。

2022年4月に東証では新しい市場区分が誕生し、近年のIPO 件数をけん引してきた新興企業向けのマザーズ市場は、「グロース市場」へ引き継がれました。同市場は「高い成長性を有する企業向け市場」というマザーズ市場のコンセプトを維持し、基本的な各基準の枠組みも大きく変わっていません。これまでマザーズ市場を目指してきたスタートアップにとっては、市場区分見直しで何かが大きく変わったという印象は持たれていないのではないでしょうか。各種規則も前倒しで施行しており、IPO 自体への影響はないと考えています。

「プライム市場」については、新規上場時に時価総額250億円以上が求められるほか、流動性等において新規上場基準と上場維持基準が同一となりました。上場後も上場維持のために、自社の企業価値向上をより意識していただく必要があります。

-再編前は多様な企業向け市場として「JASDAQ」がありました。高い成長性を目指すグロース市場でも、プライム市場でもない企業が目指す市場は

標準的な市場は「スタンダード市場」です。市場ごとのコンセプトでは「プライム市場」は、国内外の機関投資家からの投資対象となる企業向けの市場です。そのため英文での情報開示やより高い水準のコーポレート・ガバナンス(企業統治)など、投資家からの高い目線の期待に応えることが求められます。

これに対して、国内の限られた標準的な市場での評価で十分ということであればスタンダード市場を選択していただくことになるでしょう。プライム市場の企業数が多いため、スタンダード市場は格が違うという印象を持たれる方もおられるかもしれませんが、市場の位置づけとしてスタンダード市場は名前の通り「標準」であって、プライム市場とは市場のコンセプトが異なります。

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-近年のIPOに変化は見られますか

IPOを目指す企業はもちろん、証券会社やベンチャーキャピタル(VC)など支援関係者が、企業にとってより良いIPO を実現するために、非常に熱心に研究されており、IPO が洗練されてきています。

例えばこの1~2年、IPO において海外の機関投資家に販売する動きが目立ちます。 特にグロース市場へ上場する新興企業の中に、米国を含む世界の投資家を対象とする英文目論見書が必要なグローバル・オファリングや、日本国内の規制にもとづいてアジアなどの海外投資家を対象に販売する旧臨時報告書方式(旧臨報方式)を活用する動きが出てきています。IPO支援関係者の間でも、海外投資家に評価されるくらいまでの規模に企業が成長した段階で、IPO を実現しようというような流れも出てきています。

-海外の投資家を意識したIPO が増えているのですね

グローバル・オファリングも旧臨報方式も手法としては以前からありましたが、手続きや準備負荷が大きく、ノウハウも共有されていなかったこともあり、実施できるのは大企業に限られる側面がありました。最もハードルが高いのは海外投資家に自社を訴求する点です。英語でのプレゼンテーションはもちろん、経営者に資本市場についての深い理解が求められます。

一方で、企業の事業内容によっては、国内の投資家の評価より、海外の機関投資家による評価の方が企業にとって納得感のある評価を得られることもあるようです。自社の企業価値を適正に評価してほしいという企業側の希望に対して、グローバル・オファリングなどを通じて海外の機関投資家が株式を保有することで、IPO 時に企業側が求めるバリュエーション実現につながるということです。

-ここにきてなぜそうした事例が続いているのでしょうか

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