TDB REPORT ONLINE

現在、金融庁や日本証券業協会(日証協)などにより、スタートアップなどの非上場株式の流通促進に向けた環境整備が進められている。

具体的には、改正金融商品取引法(2025年5月施行)に基づき「非上場有価証券特例仲介等業務」が新設され、非上場株式を仲介するための登録要件が緩和されたほか、PTS(Private Trading System、私設取引システム)を〝認可〟ではなく〝登録〟によって開設できる「登録PTS制度」が創設された。今後、新規事業者の参入が期待されている。

こうした環境整備の背景には、現在、日本のスタートアップ企業の株式発行・流通の状況としては「資金調達(プライマリー)」のみでセカンダリー(流通市場)がほとんど存在しない点がある。

今、国の政策として進められているスタートアップの育成のためには、こうした「プライマリー市場」だけではなく、投資家が保有する非上場株式を売買できる「セカンダリー市場」(流通市場)での流通を活性化し、資金調達方法を拡充することが求められている。

日証協・エクイティ市場部上席課長の岩瀬哲也氏に、非上場株式の流通活性化を進める背景や現在の取り組みなどを聞いた。

スタートアップの成長に向けて求められる非上場株式の流通環境の整備

―なぜ今、非上場企業株式の流通活性化や、セカンダリー市場の拡充が求められているのでしょうか

【日証協】出発点は、2022年11月に政府が公表した「スタートアップ育成5カ年計画」です。もともと、スタートアップは、新しい技術やアイディアにより社会課題をスピード感を持って解決していく存在であると同時に、市場に新たな刺激を与えることで市場の活性化や既存企業の生産性向上をもたらすということで、スタートアップの支援については以前から議論されていましたが、この計画で2027年(当初から5年後)までにスタートアップへの投資額を10倍(10兆円)にするという新たな目標が掲げられました。

これまで、日本は米国に比べてスタートアップの資金調達額の規模が小さすぎるという点が指摘されてきました。市場規模が異なるため、金額の大きさに違いがあるのは当然ですが、資金調達額の対GDP比(2023年)という比率でみても、米国0.49%に対して日本は0.14%と小さく、資金調達の活性化の余地があるのは明らかです。

また、資金調達の活性化には、スタートアップが非上場のままで成長することができる環境の整備が必要です。投資家にとっても、スタートアップのステージに応じてより適切な投資家に受け渡す環境があると、プライマリーでの投資につながり易くなります。これらの環境整備を実現するために、非上場株式の流通活性化、その場となるセカンダリー市場の拡充が求められています。

―これまでの日本のセカンダリー市場はどのような状況ですか

【日証協】スタートアップのシード、アーリー、ミドル、レイターとそれぞれの期に詳しい投資家は必ずしも同一ではなく、各局面に長けた投資家がいる場合、成長ステージに応じて適切な投資家からの資金やアドバイスを受け入れるのが望ましいと考えられます。

例えば、米国ではスタートアップはセカンダリー市場を利用して、成長のステージごとに適切な投資家を渡り、株主を変えて成長していきますが、日本ではセカンダリー市場が実質存在しないため、そうしたエコシステムがありません。ベンチャーキャピタル(VC)などの投資家も非上場株式を売買できる場がないため、投資したスタートアップの株式をIPOなどのExitまで持ち切るしかありません。こうした流動性の乏しさが、投資家が日本のスタートアップへの投資を敬遠する一因になっています。

スタートアップの成長に向けて、株式の「発行」と「流通」は両輪の関係です。投資家にとってどちらか優先という問題ではなく、どちらの市場においても株主の活性化と流動化が重要課題なのです。

―そうした課題解決に向けてどのような取り組みが進んでいるのでしょうか

【日証協】スタートアップの資金調達やセカンダリー市場については、政府の「規制改革推進会議」において検討が進められてきました。その過程で業界をあげて議論を深めるために、日証協と金融庁が連携し2024年12月に「スタートアップ企業等への成長資金供給等に関する懇談会」を開催することといたしました。

この懇談会には、証券会社だけではなく、研究者や弁護士などの有識者、VC、IPOを経験した経営者、スタートアップ向けSaaS提供事業者など幅広い関係者に参加いただいています。そこで、既存制度の改善の可能性や、法改正で新設された「登録PTS制度」に関してセカンダリー市場でどのような取り組みが必要か、といった点を含めて、非上場株式の発行・流通市場の活性化に向けた議論を重ねています。

―日本のスタートアップに対する投資形態はどのようになっているのでしょうか

この続きを読むには会員ログインが必要です。
ログイン

関連記事