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2021年は、コロナ禍が長期化したなか、国内外でワクチン接種が進み、後半から本格的に経済活動が再開された。ウィズコロナやポストコロナを見すえたデジタル化の進展や生活スタイルの変化、人流や物流の再開でマーケットも回復基調を見せた結果、IPO件数も大幅な伸長を見せた。主幹事証券会社としてトップの実績を有する野村證券株式会社の公開引受部次長、松下剛士氏に、2021年のIPO の特徴、そして2022年の動向について聞いた。

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公開引受部次長 松下 剛士 氏

-2021年のIPO を振り返り、特徴をお聞かせください

IPO件数は125社と前年を32社上回り、2007年以来の100社超えとなりました。市場別ではマザーズ上場が93社と七割強、業種では情報通信、サービス業が七割を占め、市場や業種において大きな変化はみられませんでした。

一方、上場時時価総額では、2021年は1,000億円を超える企業が5社誕生しました(2020年はゼロ)。同100億円以上の企業は51社とIPO全体の約40%を占め、前年(約30%)を上回りました。

前年に比べ年間を通じて安定して高い株価で推移したというのもプラス材料でした。

オファリング手法に注目すると、全世界の投資家を勧誘対象とするグローバル・オファリングが5社、北米を除く欧州・アジアの海外機関投資家を投資勧誘対象とする旧臨時報告書方式(旧臨報方式)が27社と、多様化しています。

- IPO の時点で海外機関投資家を意識する企業が増えているということでしょうか

海外機関投資家を呼び込む手法の一つとしては、グローバル・オファリングがあり、ディールサイズが500億円を超えるような大型案件などで行われます。例えば、ディールサイズが約680億円のビジョナル(4月)は9割が海外機関投資家向けの販売でした。

旧臨報方式では、従来は国内投資家への販売を主体とし、一部を海外機関投資家へ販売するというケースが多かったのですが、2021年はセーフィー(9月)やエクサウィザーズ(12月)など、同方式を採用して7割近くを海外で販売するという企業も登場しています。

-他に注目される特徴は

IPO に向けたマーケティングに機関投資家の存在を活用した事例が見られました。公募・売出株式の一部を優先的に割り当てる「親引け」という手法を機関投資家向けに行った企業が4社ありました。

-「親引け」を採用するメリットは

IPO 時において予め有力な機関投資家の評価や投資意向を得ておくことで、事業の成長性やバリュエーションの適正性について、一般投資家など他の投資家からの関心を高めることにつながります。それがファイナンスに寄与します。

2021年の「親引け」の引受先をみるとフィデリティ(米)やシンガポール政府投資公社(GIC)など錚々たる機関投資家が並んでいます。こうした機関投資家の参加によってポジティブなモメンタムを醸成し、公開価格の適正化を目指した事例といえます。

-こうした手法はこれまでも取られていたのでしょうか

「親引け」は原則禁止されています。例外として、従業員持株会や取引先が親引け先として認められる事例はありましたが、機関投資家への親引けは、一般的とはいえませんでした。

2021年にこうした手法が実施されるようになった背景には、IPOの初値が公開価格を大きく上回るというアンダープライシング問題が注目されるようになったことも挙げられます。状況改善のため主幹事証券が「企業価値向上に資する」と判断し、親引けを行っています。これは海外では「コーナーストーン投資家」といって上場前の機関投資家による投資や、上場前後を通じて機関投資家が株式を保有する「クロスオーバー投資」は一般的です。こうした海外事例の影響もあるでしょう。

-今後も活用が増えて、定着するでしょうか

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