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近年のIPO増加の背景には、ベンチャーやスタートアップによるIPOの活況がある。成長企業向けのマザーズ市場への2021年のIPO は93件と、全体(125件)の74%を占めた。そうした新興企業がIPO を果たすまで伴走者として支えるのが、ベンチャーキャピタル(VC)だ。資金面だけではなく、人材や経営判断・アドバイスなどさまざまな局面でサポートし、企業価値を向上させIPO 成功に導く。スタートアップの育成が、国家的課題として注目されるなか、IPO を巡るプレイヤーとしてVC の存在感がますます高まっている。一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会企画部委員の大島怜氏に近年のVC をめぐる動向について聞いた。

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企画部委員 大島 怜 氏

- VC をめぐる最近の動向をお聞かせください

VCの動向をめぐってはふたつの視点があります。まずひとつは、VCから投資先企業を見た場合です。投資先のスタートアップの資金調達は順調に伸びており、2021年の総調達額は約7,800億円に達しました。1社当たりの平均調達額も直近では約3.5億円になり、これまでは比較的少なかった1社あたり100億円超規模の資金調達案件も見られるようになりました。大きな資金でより大きなチャレンジに取り組む事例が生まれています。

海外投資家による投資も増加しており、2021年にスタートアップが調達した金額の約4割は海外マネーが占めました。前年2020年の1割からすると大きな変化です。

-そうした変化の背景は

ここ数年で様々な側面で質的な転換が起きています。まず起業家など経営者層の人材が厚みを増しています。弁護士や医師、戦略コンサルタント、商社、大手メーカーのエンジニアなど起業家のバックグラウンドも多様化しており、CFOを含めた経営メンバーとして参加する方もいます。彼らのマインドセットの変化も大きく、社会課題を解決したいという強い思いで起業する方が増えています。また、英語での情報発信やコミュニケーションに長け、海外投資家と直接コミュニケーションをとれる起業家が増えた効果も大きいですね。

-人材以外ではいかがですか

起業するための環境全般が良くなっています。インキュベーション(揺籃)期の投資に特化する、また、起業直後のフェーズで成長促進に注力するVC も増えています。サポートするプレイヤーも広がっています。契約関係の弁護士、人材紹介会社など、VC以外にスタートアップ向けに特化した事業者が登場しています。成功した起業家の存在も大きく、メンターとして別の起業家を支えるというようなスタートアップを育成するエコシステムができつつあります。

-スタートアップ側からするとこの数年で一気に環境が整ったといえます

劇的に変わりつつあると言えます。二つ目の視点として、ファンドに出資する機関投資家などLP(Limited Partnership)投資家からVC を見た場合の変化も顕著です。ファンドサイズでは10年前は100億円を超えるケースは年に1~2本あるかという程度でしたが現在は年間十数本組成されるなどファンドサイズが大型化しています。当然VCがスタートアップに投資できる金額も増え、VC投資の大型化に寄与しています。

-ファンド大型化の背景は

ファンド大型化のドライバーとなっているのが、投資家層の変化です。投資のフェーズ「シード」「アーリー」「ミドル」「レイター」の四段階のうち、後半のレイター期、IPO の手前にあたるこの時期における投資が増加しています。従来レイター向けの投資は少ない傾向がありましたが、近年はレイター期に特化したファンドも組成されています。この層には海外VCやプライベートエクイティファンド(PE)によるグロース投資(特に成長性が高いと期待される企業への投資)も増えており、質、量ともに劇的な転換を見せています。

-国内要因の注目点は

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