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政府は2022年を「スタートアップ創出元年」と位置づけ、政策面でのさらなる支援強化を進めている。IPOが活況を呈した2021年、スタートアップ支援策の一端として「公開価格の設定プロセス」をめぐる議論が本格化し、2022年はその改善実施に向けて実務面で具体的な運用が開始される予定だ。IPOを目指す企業や証券会社、投資家など市場関係者にとって、どのような影響があるのか。証券業界の自主規制機関である日本証券業協会(日証協)の自主規制本部長、松本昌男氏に、取り組みの経緯や今後の工程について聞いた。

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自主規制本部長 松本 昌男 氏

-2022年2月、日本証券業協会として「公開価格の設定プロセス」に関する報告書を公表されました。これまでの経緯についてお聞かせください

2021年3月の政府の「成長戦略会議」において、スタートアップの創設・成長発展のための環境整備の重要性が確認されたことを受け、同月に内閣官房に「スタートアップの育成の在り方に関するワーキンググループ」が設置されました。IPO における問題について議論が進み、6月公表の「成長戦略実行計画」において、「IPO 時の公開価格設定プロセスの在り方について、実態把握を行い、見直しを図る」との方針が明言されました。

こうした一連の動きを受けて、日証協でも、9月にワーキング・グループを設置し、検討に着手しました。幅広く改善策を検討するため、IPO案件の主幹事実績の豊富な証券会社をはじめ、近年IPO を行ったスタートアップ、国内および海外の機関投資家、有識者などの参加を得て、2022年2月まで6回にわたって議論を重ねてきました。

-実態把握という点では、公正取引委員会(公取委)も調査を行い、2022年1月に公開価格設定プロセスに関する報告書を公表しています

公取委の報告書については、当協会へ内容を説明いただくなど、理解を重ねたうえで、当協会で改善策への取り組みをとりまとめ、ワーキング・グループ報告書を2022年2月に公表しました。

それぞれの報告書をふまえ、4月開催の政府の「新しい資本主義実現会議」(第5回)において、内閣官房、金融庁、公取委の連名で「IPOプロセスの見直し」が公表されました。(図表1)

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-2021年に、「公開価格の設定プロセス」が注目された背景は

「成長戦略実行計画」では、IPOにおいて、日本は海外主要国と比べて、初値が公開価格を上回る傾向が高く、初値が公開価格を上回った場合、公開価格で株式を取得した特定の投資家は差益を得ますが、スタートアップなど発行会社には直接の利益が及ばない旨が指摘されています。国の大きな命題としてスタートアップの育成が掲げられ、課題を整理していく中で早急に取り組むべき課題として浮上したと考えられます。

2021年はIPOが年間125件と前年を大きく上回り、株式市場が好調だったことも関心を喚起したのではないでしょうか。初値が高くつく傾向があり、一部にはそうした状況に対して不満をお持ちの発行会社の方がいらしたのも事実です。

-2月に日証協としてワーキング・グループ報告書を公表されたときの反応は

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