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「健康経営」の広がりを支えているのが、2016年度に経済産業省と日本健康会議によって開始された「健康経営優良法人」の認定制度である。優良な経営法人を認定して見える化する、同制度による認定法人数は、新型コロナ前の6,294件(2019年度)から14,544件(2021年度)と急伸している。政策面において健康経営施策を推進する経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課長 橋本 泰輔氏に、近年の健康経営および認定制度の動向について聞いた。

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経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課長
橋本 泰輔 氏

-コロナ禍の長期化により、企業の健康管理にはどのような影響が出ていますか

新型コロナの感染拡大を契機として働き方が明確に変わってきました。良い変化としてはリモートワークやフレックスなど柔軟な働き方を取り入れる企業が増え、自宅で過ごす時間や家族と過ごす時間が増えたこと、通勤負担からの解放、それらによるストレスの軽減などが挙げられます。

一方で、人との対面での直接的な関わりが減少したことにより、単身者を中心にメンタルヘルスの問題が増加しています。また、外出機会の減少による運動不足から来る心身の体調悪化など、マイナスの影響も明らかになっています。こうした背景により、企業における従業員の健康管理に対する意識が高まってきています。

-企業としてマイナスの影響をどう解決するか課題です

基礎疾患がある方や抵抗力が弱っている方が新型コロナに感染すると重症化するリスクが明らかになり、予防医療や日々の健康管理の大切さは、国民一般へ浸透しました。そうしたなかでマネジメントの一環として、従業員の健康管理の重要性を意識する企業や経営者が増えているといえます。

-上場企業では人的投資の側面からも、「健康経営」に積極的に取り組む傾向が見られます

上場企業については、日経平均225銘柄のうち、約7割の企業が「健康経営優良法人」の認定を受けています。大規模法人部門での認定を受けるには、全体で180問にわたる「健康経営度調査」に回答し、体制構築や制度・施策の実行、検証、改善などに一貫して取り組むことが求められます。そのような負担がありながらも、リーティングカンパニーと言われる企業が組織として取り組むのは、経営者が人的投資の一環として「健康経営」の重要性を理解しているからといえます。

健康経営実践の効果については現在分析を進めており、タイムラグはあるでしょうが、今後従業員の健康状態に関するアウトカムからパフォーマンス向上につながっていく効果が明らかになると思われます。また、中小企業庁が推進する「パートナーシップ構築宣言」のひな形においても、2022年3月に健康経営についての取組が追記されました。大企業が推進することで、サプライチェーン全体への波及効果も期待されます。

-中小企業の取り組み状況についてお聞かせください

2021年度の中小規模法人部門の認定数は1万2,255件です。大企業の認定取得率が上昇する一方で、中小企業は全国に約358万社あると言われるのに対し、健康経営優良法人の認定企業はまだまだ割合が少ないのが現状です。中小企業には家族経営の零細規模から組織マネジメントが必要な規模まで様々な法人がありますが、いずれにしても、358万中1.2万という状況は、今後の拡大の余地があると考えています。

地域別では、大阪府(1,717件)、愛知県(1,318件)、東京都(700件)など大都市圏において認定法人数が多いほか、鳥取県や徳島県、茨城県、和歌山県などでも、認定法人数が前年度比で2倍以上になっています。

業種別では、建設業、製造業、運輸業で大きく増加しています。

-人手不足が深刻化している業種では、 人材確保面での効果が期待されているのでしょうか

健康経営を促進することで、従業員の定着や採用活動を有利にしたいという目的はあるでしょうが、長時間労働の改善や不規則な勤務時間への対応ということもあるのではないかと考えています。

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