コロナの5類移行で店舗販売は改善、EC取引があと押し
コロナ禍での外出機会の減少により需要が落ちこみ、店舗販売を中心に多大な影響を受けたアパレル業界。店舗営業の自粛に加えて、製造・卸売業者では、綿やウール、合成繊維の材料となる原油など原材料の高騰のほか、円安の進行による輸入価格の上昇により苦戦を余儀なくされてきた。
2023年以降は、新型コロナの5類移行による行動制限の全面解除で店舗販売は改善傾向にある。コロナ禍で加速した電子商取引(EC)も消費をあと押しし、実店舗とECを融合した新しい接客手法の活用の動きがみられるうえ、外国人観光客数の回復による需要が高まりつつある。
そこで帝国データバンクでは、アパレル業界を取り巻く環境や景気DI(※1)の動きを調査した。
※1 景気DIは、TDBが算出する全国企業の景気判断を総合した指標。50を境にそれより上であれば「良い」、下であれば「悪い」を意味し、50が判断の分かれ目となる
コロナ禍前から人口減少や消費不振、高級品の販売ルートであった百貨店業界の低迷などにより、アパレルDI(※2) は全産業の景気DIを大きく下回っていた。そこにコロナ禍が加わり、2020年4月には11.7と過去最低の水準にまで急落した。
※2 アパレルDIは、「成人男子・少年服製造」「成人女子・少女服製造」「男子服卸売」「婦人・子供服卸売」「男子服小売(製造小売)」「婦人・子供服小売」などの衣類関係で景気DIを算出
その後は、感染動向に左右されながらも店舗販売の落ち込みをネット通販などが下支えし、徐々に改善傾向を示してきたが、全産業DIとの乖離は大きい状況が続いた。2022年2月には、ウクライナ情勢やオミクロン株の広がりなどでDIは再び下落。その後も、原油高騰や円安により、製造・仕入コストが上昇し、厳しい状況を強いられてきた。
しかし、ワクチン接種の浸透などにより外出が増加し始めた2022年秋以降から、回復傾向が顕著になってきた。2023年5月の新型コロナウイルス感染症の5類移行とともに、外出機会の増加が需要を刺激し、アパレルDIは全産業の景気DIに迫る勢いで急回復した。
その結果、コロナ禍に最大16.0ポイント(2021年9月)あった全産業の景気DIとの差は、0.9ポイント(2023年5月)にまで縮まり、アパレルDIもコロナ前の水準を上回った。
現在、アパレル業界で勢いがあるのは、安価で流行を捉えた「ファストファッション」市場である。企画から製造、販売まで一貫して手掛けるSPAモデルが強みだが、利益率が高い一方で、近時では脱炭素やSDGsなど環境意識の高まりを受け、衣服の大量生産・大量廃棄につながるビジネスモデルの見直しを迫られている。
こうしたなか、適量生産や環境に配慮した素材の活用、着なくなった衣服の回収などに取り組む企業が増えている。大量に仕入れて安値で販売する商習慣を見直す動きがみられる背景には、過剰在庫の発生を抑え、確実に売れる商品を定価で販売して収益を改善させる狙いがある。
総務省の「家計調査」によると、1世帯あたりの被服への消費支出の割合(二人以上の世帯)は、コロナ前である2019年の3.1%から2023年1-10月は2.5%と、0.6ポイント低下している。金額ベースでは、1世帯あたりの消費額は年間で約1万7,500円の減少となった(2019年と2022年を比較)。
在宅勤務の浸透やファッションのカジュアル化が進み、百貨店アパレルを中心とした中価格帯(1万~3万円程度)の市場は縮小。その半面、ECやメルカリなどの二次流通市場が拡大している。また、ファストファッションが市場を席巻したことで、衣類の価格は一段と安くなっていき、低価格帯市場が広がったことも、衣類への支出が減った要因の1つと考えられる。
経済活動の正常化が進むなか、アパレル業界は外出や旅行機会の増加、インバウンド需要もあり緩やかな回復傾向にある。一方で、生産コストの上昇から値上げも相次いでいる。生活必需品への節約志向は続く見通しで、利益率の高いSPAを中心とした低価格帯市場が業界を牽引していくだろう。
今後は長年の商習慣やビジネスモデルを見直すことに加えて、デジタル技術の活用、独自性のある商品・サービスを創出し消費者からの支持を獲得することがカギとなる。