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本連載では、日本企業の主要進出先と想定される世界各国の政経情勢を取り上げる。第17回はタイを紹介する。タイでは、コロナ禍後の景気回復ペースが緩慢なことから、2023年9月に発足したセター政権が国民の7割にデジタル通貨を配るなどの大胆な景気刺激策を講じようとしている。以下では、2023年の政経情勢を振り返るとともに、セター政権の経済政策などを踏まえて今後のタイ景気を展望する。

【目次】

■紆余曲折を経て大連立政権が誕生
■コロナ禍一巡後の景気回復は力強さを欠く
■大規模なデジタル通貨配布などの景気刺激策を相次ぎ発表
■2024年の景気は復調も、家計の過剰債務解消には時間
■EV産業の育成へ日本企業の協力に期待
■執筆者紹介


■紆余曲折を経て大連立政権が誕生

2023年のタイ情勢を振り返ると、まず政治面では、2014年のクーデター後から続いてきた軍政支配が大きく変化し、長年対立してきたタクシン元首相派と親軍派が合流しての大連立政権へ移行した。

この政権交代には紆余曲折があった。5月の下院総選挙で、国政を担ってきた親軍の2党(国民国家の力党、タイ団結国家建設党)が大幅に議席を減らした一方、軍の影響力排除を掲げた革新系の「前進党」とタクシン元首相派の「タイ貢献党」の2党で過半数が確保され、一時は野党8党が、前進党のピター党首を首相候補とする連立政権樹立で合意した。

ところが、①7月の首相指名選挙(親軍派が大多数を占める上院との合同投票)でピター氏選出に失敗したこと、②ピター氏が選挙関連法違反の疑いで憲法裁判所から議員資格の一時停止処分を受けたことで、当初の連立構想が頓挫し、その後の諸政党間の交渉により、第1党の前進党が連立の枠組みから外れる一方、親軍2党などが合流した11党による大連立に至った。

そして、8月22日に第2党・タイ貢献党の民間非議員で、4月まで大手不動産開発会社の社長を務めていたセター氏が新首相に選出され、3カ月半にわたる政治空白がようやく解消された。

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