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国内企業の2017年度業績は、国内景気の緩やかな回復や輸出の好調を受け、大企業を中心に過去最高益が相次いだ。2018年度も増収増益基調が予想されるが、働き方改革の推進もあり、生産性向上や効率化への関心が一層高まっている一方で、好況や少子高齢化により正社員の有効求人倍率が過去最高を記録するなど、人手不足の深刻化も進んでいる。

こうした変化のなかで、地域経済を支える中小企業は、地域との関連性をどのように意識し、今後の成長のためにどのような点に取り組んでいるのか。中小企業を取り巻く環境、およびアンケート結果を通じて、その動向を概観する。

1.堅調な国内経済で、拡大する企業間の生産性格差

2018年の日本経済は、上場企業を中心に回復傾向が続き、中小企業を取り巻く状況も改善を見せた。しかし、その動向は地域や業種や地域によってばらつきがあり、原材料や人件費の上昇を製品・サービス価格に転嫁できず、収益確保に苦しむ中小企業も多い。設備投資動向をみても、生産増強や開発投資が活発な大企業に対して、中小企業は維持更新の投資が中心となっている。

2018年版中小企業白書においても、大企業と中小企業の生産性の格差拡大が指摘され、中小企業の生産性の向上が大きな課題としてフォーカスされた。加えて人手不足の深刻化もあり、中小企業の生産性向上は急務となった。IT 利活用、設備投資の促進による省人化・省力化、業務プロセスの見直しなど、多様な視点からの取り組みが求められている。

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2.成長戦略に基づく中小企業支援策の推進、強化

政府は成長戦略における重要テーマとして、「中小企業の活性化」を掲げ、成長を求める意欲的な企業に対する支援を強化している。2018年6月に公表された「未来投資戦略2018」においても、働き方改革への対応を図るために生産性の向上が不可欠と強調された。

政策が支援の枠組みづくりから、地域の現場への浸透の段階へシフトするなかでそれを支えるのが、2016年7月に施行された中小企業等経営強化法や、2018年6月施行された生産性向上特別措置法などの各種支援策である。

中小企業等経営強化法に基づき、税制面の支援や資金繰りなどの支援を受けられる経営力向上計画の認定を受けた事業者数は、2018年10月末時点で73,817件で1 年前の37,325 件(2017 年10月末時点)から97.8%増と大幅に増加した。

とくに建設や運輸、介護・ヘルスケア、外食などの労働集約型の産業では、IT 利活用による、効率化、生産性向上に向け、関係省庁や関連団体との連携強化が進む。また、生産性向上特別措置法に基づく「先端設備等導入計画」の認定件数は、14,272 件(2018年9月末時点、固定資産ゼロ対象分)にのぼった。

2017年7月に施行された地域未来投資促進法の活用も本格化。同法に基づく「地域経済牽引事業計画」の承認も進んでおり、地域産業の裾野拡大を目指す同事業は、3年間で2,000社程度の支援を目指す。

3.せまられる人手不足への対応

一方で、この1年で深刻化に拍車がかかっているのが、人手不足問題だ。2018年9月の有効求人倍率(季節調整値)は、1.64倍となり、1974年1月以来の高水準を記録。正社員の有効求人倍率(同)は、1.14倍で過去最高となり需給バランスはタイトな状況が続く。

帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査(2018年10月)」においても、正社員が不足している企業は52.5%で1年前(2017年10月)から3.4ポイント増加。調査開始以来最高を更新し、中小企業においても初めて5割を超えた。また、非正社員も34.1%の企業が不足していると感じており(前年同期比2.2ポイント増)、小規模企業で過去最高を更新するなど、企業規模にかかわらず人手不足が深刻化している。

4.中小企業の成長に向けた取り組み~地域での人材確保に関心

こうした環境変化のなかで、次世代の成長に向けた事業展開として、地域経済を支える中小企業はどのような取り組みに関心を持っているのか。

今回、帝国データバンクでは、企業概要ファイルCOSMOS2(147万社収録)より4,275社を抽出し成長に向けた取り組みについてアンケートを行い、今後取り組みたい点について、「地域との関連性」および「成長に向けた事業展開」の2つの視点から質問した。回答数は855社(有効回答率20.0%)まず、地域との関連性において今後取り組みたい点でトップとなったのは「地元人材、U ターン・I ターン人材の積極的な採用」(73.1%、母数を全回答数とした選択率、以下同様)で、7割を超えた。

業種別では、建設業(92.9%)が9割を超えて突出。製造業(79.3%)、運輸業(77.1%)もそれぞれ7割を超えた。卸売業(66.1%)、小売業(64.7%)、サービス業(66.1%)も、6割を超えており、人材確保が最大の関心事となっている点がわかる。地域別では、四国(91.7%)、中国(86.7%)、東北(85.4%)、北海道(84.2%)、甲信越(81.3%)の11地域中5地域が8割を超えた。

「学生のインターンシップ制度等の拡充」(九州・沖縄、卸売)や、「学卒者の県外流出を防ぐ手立てを打つこと」(九州・沖縄、小売)など、新卒人材が地元での就職を選択するような取り組みを求める声も切実だ。一方、大都市圏でも「地方の学生も積極採用していく」(南関東、サービス)とする企業があり、今後、新卒採用の大都市圏と地方の人材獲得競争に一層拍車がかかる可能性がある。また、Uターン・I ターン促進には「育児・住居など、行政と企業が協力し、受け皿作りが大切である」(中国、製造)との声もあり、地域における人材確保には、自治体と企業がより連携したアピールが求められる。

次いで多かった「地元での顧客開拓」(46.2%)は約半数が選択した。卸売(63.1%)やサービス(60.5%)が6割を超え、「地域の高齢者へ“ 栄養と食事” をテーマに、地域の健康作りに貢献する」(北陸、卸売)や「主要顧客が地方自治体や大学で、産官学連携の素地は整っている。最近では、地方自治体とAI活用の実証実験なども開始」(近畿、サービス)といった声が聞かれるなど、地元での展開を重視する企業は多い。

また、3割を超える企業が選択したのが、「地元での中核拠点の整備」(38.4%)、および「地域貢献」(32.9%)の2点である。地域貢献のひとつとして、災害発生時には、地元企業ならではの機動的な動きが期待される。「機械や車輌を自社で保有し、災害時には地域にいち早く貢献できる会社にする」(四国、建設)といった意見にみられるように、地域貢献を挙げる企業が建設(71.4%)で7割を超えた点は注目される。地域別では北海道(42.1%)、北関東(44.1%)、中国(41.7%)と、2018年に大規模な自然災害が発生した地域を含む3地域で、地域との関連性で「地域貢献」に取り組む意向がある企業が4割を超えた。(図2)

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5.成長に向けた事業展開―事業承継・幹部人材育成に関心

成長に向けた事業展開として取り組みたい点で、トップになったのは「商品・サービス・技術力の開発強化」(49.2%)で、中でも業種別では、製造業(63.2%)は6割を超えた。「ゴミからタイルを作る社会性の高い新ビジネスを国内外に広めたい」(東海、製造)、「独自の技術力、開発力など他社との優位性を獲得する」(北陸、製造)といった意見があり、関心は高い。企業の設備投資促進にあたっては、前述の通り制度拡充が進んでいる。しかし、「補助金、税制優遇等の申請手続きの簡便化、年度区切りの緩和を行ってほしい」(近畿、卸売)と、手続き簡素化を求める声は依然として多い。現場への浸透、利用拡大に向けては、手続き面をいかに改善していくかが課題といえる。

次いで、選択率が高いのが「事業承継、幹部人材の育成など経営体制の強化」(43.5%)となった。業種別では、建設(62.5%)が6割を超えた。事業承継推進は喫緊の課題となっており、事業承継税制など、相次いで制度面の拡充が進む。

アンケート回答企業からは「当社だけではなく取引先の事業承継も重要」(南関東、製造)、「地元企業の継続的な成長・発展を行うために、事業承継を円滑にできる仕組み作り」(東海、サービス)など、自社だけではなくサプライチェーン全体、さらには地域経済全体に影響を及ぼしかねない課題として、危機感を持つ企業が増えている。

6.効率化、生産性向上への関心は4割近い企業が関心

「設備投資やIT 利活用による効率化、生産性向上」は、36.8%と4割近い企業が選択した。業種別では、農・林・水産(71.4%)を筆頭に、製造(47.7%)、建設(42.9%)、運輸(40.0%)の4業種が4割を超えた。

「物流企業の人材不足は深刻化しており、それを補うIT技術は絶対必要」(南関東、運輸)、「社会全体で納品書や送り状などの紙媒体をできるだけ少なくしデータ化に移行していかないと物流の効率化のボトルネックとなる」(東海、運輸)、「IT、AI の利活用による省力化を通しての働き方改革が今後必要」(九州・沖縄、建設)など危機意識は高く、一層の取り組み推進が期待される。(図3)

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7.求められる変化への対応

以上、中小企業を取り巻く環境変化や、アンケート結果をもとに中小企業が地域との関連性や、そして今後の成長に向けてどのような点を意識しているかを概観した。その結果、事業承継含め「人材」にきわめて関心が高い点が明らかとなった。2018年は、人手不足の深刻化が幅広い業種に及ぶ一方、同年6月には働き方改革関連法案が成立、労働時間の制限など労働環境の整備についての政策も打ち出された。変化が激しい中で、残業時間規制など、「中小企業および社会が対応できるのか」(東北、運輸)という切実な声もあがる。

こうしたなか2018年12月には、外国人労働者を広く受け入れる改正出入国管理法が成立、2019年4月施行が予定されている。外国人雇用の拡大に対する要望は根強く、政策転換を歓迎する声もあがる。ただし、具体的な制度設計はこれからであり、労働環境や賃金の問題など解決すべき課題は多い。

8.人材を巡る経営、取り組みが大きなテーマに

アンケート回答の中には、「従業員の幸せを考えていく、企業経営を目指すこと」(東北、建設)や、「社員満足度の向上が企業の成長には不可欠だと思う。顧客満足度よりも優先順位は上かもしれない」(南関東、運輸)という企業もあった。

中小企業の成長に求められるのは技術開発や生産性の向上だけではない。従業員の満足度を重視する経営が、人材確保という点において、選ばれるポイントとなるかもしれない。働き方改革や、外国人労働者の本格的な受け入れが始まるなかで、「人材」をめぐる取り組みが中小企業の成長にとって、2019年の大きなテーマのひとつとなる。

以降の記事では、2017年12月に選定された「地域未来牽引企業」を支援する「地域未来コンシェルジュ」の視点から見た中小企業の成長へのポイントのほか、中小企業への支援策のひとつであり、近年その活用が多様化している中小企業基盤整備機構のファンド事業の役割について、紹介する。

また、先進事例として、成長に向けた取り組みを進める中小企業を取り上げる。有力中小企業が、地域との関連性、および成長に向けどのような取り組みに関心を持っているのかを参照いただきたい。

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