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本連載では、日本企業の進出先として想定される世界各国の政経情勢などを取り上げる。第11回は、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、経済・社会のあり方に大きな見直しを迫られているドイツの状況を紹介する。2021年12月に発足したショルツ政権は突如、ロシア産天然ガスに大きく依存したエネルギー構造を抜本的に変革する必要性に直面し、様々な取り組みを始めた。しかし、当面の混乱は避けられそうもない。以下では、ショルツ政権の政策対応を中心にドイツの現状を整理した上で、当面の見通しや注目点を指摘したい。

■ 政権交代直後に2つのショック

ドイツでは、2005年から政権を率いてきたメルケル前首相が引退し、2021年12月、社会民主党のショルツ氏を首相とする緑の党・自由民主党との3党連立政権が誕生した。ところが、新政権誕生直後のドイツは2つの大きなショックに直面することになった。

一つは、「オミクロン・ショック」である。ドイツの新型コロナ新規感染者数は、オミクロン株の蔓延により2021年12月下旬の1日約2.7万人から2022年3月下旬には同約23.2万人まで急増した。こうした中、ショルツ政権はコロナワクチン2回接種者にも飲食店での陰性証明提示義務や集会の人数制限を導入するなどして、国民に追加(3回目)接種を強く促した。その結果、3回接種率(人口比)は2021年末の39%から3月下旬には60%超まで上昇し、その後の大幅な感染縮小につながった。そして、ドイツは3月下旬から周辺の欧州主要国と同様に行動制限を原則撤廃し、コロナとの「共存路線」を明確に打ち出している。5月下旬の新規感染者数は1日約2.6万人となるなど、感染のリバウンドは今のところ生じておらず、ショルツ政権は第一のショックをとりあえず克服したと言える。

しかし、もう一つの「ロシア・ショック」は、ロシアのウクライナ侵攻およびG7やEU による対露制裁が拡大する中で、近年のEU経済を支えてきたドイツのエネルギー構造や産業構造に抜本的な見直しを迫るものとなっている。これにはショルツ政権も長期戦を強いられそうである。

■ 前政権下でロシア産ガスへの依存が高まる

その「ロシア・ショック」について経緯も含め整理すると、メルケル前政権は2010年代に安全性確保や脱炭素の観点から、新しいエネルギー戦略を推進した。それは、風力や水素などのクリーンエネルギーを積極的に導入し、原子力発電を2022年までに、石炭火力発電を2038年までに撤廃(※1)するというものであった。ただし、クリーンエネルギーによって直ちに原子力や石炭火力の全てを代替できないため、CO2排出量を相対的に少なく抑えられる天然ガスが「つなぎ役」と位置付けられ、そこで注目されたのがパイプライン経由で安価に調達できるロシア産ガスであった。ロシアからドイツへのガス輸入量は2010年から2020年にかけての10年間で1.5倍に増え、輸入に占めるロシア産のシェアは2010年の36.2% から2020年には65.2% へと大きく上昇した。

さらに、2021年には、独露間の新しいガスパイプライン「ノルドストリーム2(NS2)」が完工し、ドイツ当局による稼働開始のための承認待ちという状況にもなっていた。

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