TDB REPORT ONLINE

2016年は中小企業の「経営力の強化」や「生産性の向上」がクローズアップされた。背景には、人口減少など国内外で環境が大きく変化するなか、地域経済の活性化のために中小企業の成長が期待されていることがある。そのためには、中小企業が設備投資や人材育成など適切な投資を行い利益を生み出し、成長を続けるという好循環が不可欠だ。しかし、現実には、資金調達や事業承継の問題、人手不足の深刻化などにより、潜在的な成長可能性がありながら苦戦を余儀なくされている中小企業も少なくない。

 そうした状況を改善し、成長に向かうためにはどのような視点や取り組みが必要だろうか。中小企業を取り巻く環境や政策面、アンケート結果を通じて中小企業が持つ課題を見ていく。

1.減少する中小企業

現在、日本における中小企業数は約381万社である(図1)。全事業者数の99.7%を占め、全就業者の約70%が中小企業に就業するなど、文字通り日本経済を支える存在である。とりわけ大都市以外の大半の地域で中小企業への就業者は80%以上となるなど地域経済および雇用を支える基盤となっている。

1-1_図1.JPG

しかし、人口減少やリーマンショックなどにより、中小企業数の減少数も顕著となっており、1999年の約484万社から2014年は約381万社と、15年間で約100万社以上が減少している。

こうした状況に危機感をもつ安倍政権では、2013年以降、成長戦略として掲げる「日本再興戦略」において中小企業の活性化に注力している。

GDP600兆円を打ち出した「日本再興戦略2016」においては、ローカルアベノミクスの深化として、サービス産業の生産性向上や中堅・中小企業・小規模事業者の革新など4項目を戦略プロジェクトに掲げ、中小企業支援策を推進している。

2.成長を目指す企業を積極的に支援

こうした流れを受け、政策面においても、成長を求めて意欲的に取り組む企業に対する支援の姿勢が明確となっている。

2016年3月には経済産業省より、地方創生戦略の一環として、地域経済やそれらを支える中核企業を把握分析したうえで、金融機関や各地域の支援センターや商工会団体など各種支援機関が潜在的成長性のある企業を見出し、地域経済を支える企業を育成することを目的に企業診断の指標として「ローカルベンチマーク」が公表された。これまで行政の各種政策においては、客観的な企業診断・評価に基づく指標は乏しかったが、中小企業と支援機関との対話の入り口となるツールとして、各種の企業支援策における共通軸として普及することが期待されている。

また、2016年7月に施行された「中小企業等経営強化法」は、人材育成や財務管理、設備投資(省エネやIT 投資など)などについて「経営力向上計画」(3~5年)にとりまとめ、事業所管大臣からの認定を受けると、固定資産税の軽減措置や各種の金融支援が受けられるという制度である。製造業、卸・小売業、外食・中食産業、医療、介護など事業分野別に目標とする指標と数値が公表されている。2016年11月末時点で5,644件が認定されている。

いずれの政策においても共通するのは、経営の「見える化」を進め、強み・弱みや取り組むべき課題を整理し、成長を目指す企業に対しては、より積極的な支援を行うという姿勢である。

とりわけ、成長の実現性を高めるために、金融機関や商工団体、事業者団体、税理士や弁理士などの各種士業など外部機関との連携を強化している点が注目される。背景には中小企業の経営者が、経営を客観的に分析し経営改善や強化に取り組みたいと考えていても、知識やスキルの不足、情報量の問題などハードルは高い。このため、中小企業を取り巻く各機関が積極的に関与しサポートすることで、経営改善や成長促進につなげていこうという意図がある。

ただし、課題もある。一つ目は業種によるかたよりだ。「中小企業等経営強化法」に基づく経営計画認定件数5,644件(2016年11月末時点)のうち、製造業が4,308件と76.3% と多数を占め、サービス分野は医療・福祉業は168件(構成比3.0%)、生活関連サービス業・娯楽業は49件(同0.7%)など少ない件数にとどまっている。これは、同法利用のメリットのひとつである、生産性向上のために機械設備を導入した場合の固定資産税の軽減措置は、製造業にはメリットがあるものの、大半のサービス業にはなじみにくいためである。二つ目は、地域間格差だ。

認定件数は東京都(556件)、愛知県(605件)、大阪府(551件)の合計は1,712件と、三大都市圏で30%を占めている。日本の産業構造ではすでにサービス業の生み出す付加価値が製造業のそれを上回っており、今後は相対的に生産性が低いと言われるサービス分野がよりメリットを得られる支援措置メニューの増設や、大都市圏以外の地域での浸透が求められるだろう。そのためには企業と直接的な接点をもつ各支援機関を通じた働きかけや、サポート体制の整備がより重要となってくる。

3.金融機関に求められる融資先との関係性強化

中小企業支援においてキープレイヤーとして大きな役割を担うのが金融機関である。近年、金融機関に対しては、担保・保証に依存せず事業自体の収益性や将来性などを見極めた「事業性評価」に基づく融資や、コンサルティング機能の発揮による企業の経営改善・生産性向上などの支援に積極的に取り組むことが求められてきた。

一方で、金融庁が2016年3月に小規模企業を対象に行った金融機関の取り組みに対するアンケートでは、課題や悩みについてメインバンクに相談しているかという質問に対して、「日常的に相談している」と回答した企業は11.8%にとどまり、「時々相談している」43.5%、「まったく相談したことがない」企業は44.6%にのぼるなど、金融機関と企業側のギャップは依然として存在している。

こうしたなかで、金融庁は、2016年9月に「金融仲介機能のベンチマーク」を公表した。取引先企業の経営改善や成長力の強化、生産性向上などをみる「共通ベンチマーク」3項目のほか、企業のライフステージに応じたソリューションの提供や経営人材支援などをみる「選択ベンチマーク」14項目を設け、各施策の取り組み状況について、融資額や件数、比率などをKP(I 評価指標)として開示することを求めている。

こうした具体的数値を金融機関に求めることにより、意識の改善がはかられるとともに、取引先企業との関係性の強化につながることが期待されている。

4.進む経営者の高齢化、事業承継の遅れが顕在化

中小企業の経営改善や成長のカギを握る要素のひとつは「経営者」である。しかし、近年経営者の高齢化が進み、中小企業が抱える大きな問題として浮上している。経営者年齢のボリュームゾーンは、1995年には47歳がピークであったものの、2015年には66歳となっている。経営者の高齢化とともにリスク回避志向の高まりや投資への意欲が低下する傾向がみられ、企業の成長を阻害する要因となるリスクをはらんでいるほか、倒産・廃業となった場合は、有力な中小企業の技術やノウハウの喪失にもつながりかねない。

帝国データバンクの調査(2016年1月)によれば、経営者が60歳以上の企業のうち約半数の企業が後継者未定であることが判明している。2020年頃には団塊世代の経営者が大量に引退時期にさしかかることもあり、事業承継の促進が喫緊の課題となっている。

こうした状況を受け、「事業承継ガイドライン」についての見直しが10年ぶりに行われ、2016年12月5日に中小企業庁より公表された。今回の見直しのポイントとしては、(1)事業承継に向けた早期・計画的な取組の重要性(事業承継診断の導入)、(2)事業承継に向けた5ステップの提示、(3)地域における事業承継を支援する体制の強化の3点があげられる。事業承継に着手する目安の年齢を60歳と具体的に示し、経営者に自覚を促し、早期・計画的な取り組みの促進を進める内容となっている。

5.成長を続ける中小企業の強みとは

こうした環境や課題があるなかで、業績が堅調な中小企業は、自社の経営の強みをどこに見出し、さらなる成長のためにどこに力点を置いているのだろうか。今回、帝国データバンクでは、企業概要ファイルCOSMOS2(146万社収録)より製造・サービス業を中心に2期連続で増収増益の中小企業約1,476社を抽出し、「現在の自社の強み」と「今後強化したい点」についてアンケートを行った。複数回答、各最大3つまで(図2)。

1-1_図2.JPG

回答を得た325社(有効回答)の内容をみると、「現在の自社の強み」としてトップとなったのは「顧客へのアフターフォロー」(39.3%、母数を全回答数とした選択率、以下同様)である。次いで「ニッチ市場・地域での高シェア」(34.9%)、「従業員の職人的技能」(26.5%)「多品種少量生産への対応」(24.3%)と続いた。足回りの良さを生かしたこまやかな対応や、ニッチ市場や地域で相応のシェアを獲得していることなどが、経営基盤として意識されている。

回答企業からは、「定期的にオリジナル商材を投入し、定番化することにより同業他社に対しての優位性を保っている。独自の取り組み、製品の差別化は欠かせない」(製造)、「独立や開業に協力し、既存の販売先と競争(特に価格面)は行なわず、得意先を小さな規模から育てている」(卸売)、「会社全体のチーム力。大手企業には不可能な独自の顧客応対とスタッフのモチベーション向上」(サービス)、といった点が、自社の優位性として具体的に挙がった。

また、「地元人材の活用」も24.3%にのぼった。中小企業は雇用面でも地域を支え、人材面でも地元とのつながりを強みとして重視していることがわかる。

6.目指すのは商品開発強化による付加価値向上

次に、今後強化したい点を見てみよう。トップとなったのは、「商品開発力」(33.6%)であり、回答企業の3社に1社が意識している。とりわけ、製造業企業においては「中小企業の生命線は、いかに付加価値を創出できるかと考えている」、「いかに商品に付加価値を付けるか。理論的な物づくり(数値に裏付けされた)、品質的に絶対妥協しない」「業界内で確固たるブランド力、独自開発力を確立強化していくこと」などの回答が寄せられており、付加価値の向上を目指す姿勢が明確となっている。

注目されるのは、選択率で2番目に高い「生産工程の自動化・省力化」(27.0%)である。現在の自社の強みとして挙げている企業(5.9%)と比較すると21.1ポイント高い。

同様に差がある項目としては、「IT による物流管理」(17.6%)が14.2ポイント、「IT による顧客情報管理」(11.9%)が8.5ポイントと、それぞれ現在の自社の強みとしてあげる企業を大きく上回った。

このように業績堅調な企業は成長に向けた取り組みとして、効率化や生産性の向上に対して意欲を持っていることがわかる。しかし、そのためには将来的な設備投資やIT 投資は不可欠であり、「AI による業務の自動化・効率化が早く実現するようにしてほしい」(製造)、「IT 人材が地方にも来るようにしてほしい。東京と比べてIT 人材が非常に少ない」(同)といった切実な声もみられた。

7.多様な人材活用や柔軟な勤務形態への関心高まる

少子高齢化で労働人口が減少するなか、今後は中小企業の人手不足に拍車がかかることが予想される。今回のアンケートにおいても、回答企業からは「人材不足が顕著となり、人材を集めるための条件設定が大手企業と比べ見劣りする条件しか出せない。人材が流動化する施策を望む」(卸売)、「人材確保が難しい環境になってきている。学卒採用は厳しく、人材派遣企業の活用はコストがかかる。簡易に利用できる助成金など運用を柔軟にしてほしい」(製造)などの声が挙がった。

成長を続けるためには、優秀な人材や安定した雇用の確保は不可欠である。今回のアンケートにおいても、今後強化したい点として「女性・高齢者の活用」(17.9%)、「柔軟な勤務形態(在宅勤務など)」(7.9%)が、現在の自社の強みをそれぞれ上回った。

多様な人材活用や柔軟な勤務体制の導入といった、労務面の整備・充実も中小企業の取り組むべき課題として関心が高くなっている。

8.効率化や生産性向上がカギに

以上、中小企業を取り巻く環境変化のほか、アンケート結果をもとに中小企業が今後どのような点を経営のポイントとして意識しているかを概観した。中小企業が経営力を強化し成長を続けるためには、成長の方向性やビジョンを明確化するとともに、経営を「見える化」し、社内外のステークホルダーと共有すること、経営改善や事業承継などの課題解決に向けて金融機関や支援機関など外部の支援やリソースを効率的に活用することが欠かせない。

成長に向けた意欲の強い中小企業に対する支援政策や支援体制の整備は進んでおり、今後は、経営力強化に向け意識的に取り組む企業と、そうでない企業の差が拡大していく可能性があるだろう。

以降の記事では、2016年にスタートした中小企業支援政策の動向や、経営力強化に取り組む企業事例を紹介する。

関連記事