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【目次】

■TDB景気動向指数の動向
■TDBマクロ経済モデルに基づく日本経済見通し
■景気トピックス


■TDB景気動向指数の動向

景気は3カ月連続で改善

企業の景況感について、2025年8月のTDB景気動向指数(景気DI)は前月比0.5ポイント増の43.3となり、3カ月連続で改善した(図表1)。

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8月の国内経済活動は、記録的猛暑の影響で飲食関連や熱中症対策の商材、エアコンなどに特需が生じ、幅広い業種に波及した。また、日経平均株価が過去最高値を更新するなど、金融市場も活況だった。公共工事の発注が続き建設需要も堅調に推移し、旅行関連も好調だった。

一方で、トランプ関税をめぐる日米合意後の混乱は外需の逆風となり、屋外レジャーの低迷や価格転嫁の遅れも下押し要因となった。

『製造』分野は3カ月連続で改善が見られた。「飲食料品・飼料製造」は、飲食店や食品スーパーなどで需要が増え2カ月連続で改善した。建設部材の需要が押し上げた「鉄鋼・非鉄・鉱業」は低水準ながら4カ月連続で上向いた。「化学品製造」も2カ月連続で改善した。しかし、「輸送用機械・器具製造」は、自動車関税の引き下げ時期が未定で各社の負担が増すなか、一部メーカーの低迷も重なり3カ月ぶりに悪化した。

『小売』分野では3カ月連続で改善が見られた。「飲食料品小売」は、お盆休みの賑わいで4カ月ぶりに上向いた。また、熱中症対策や日焼け止めなど季節需要が好調な「医薬品・日用雑貨品小売」は4カ月連続で改善した。さらに、猛暑によりエアコン販売が好調だった「家電・情報機器小売」は、3カ月連続で40台を維持した。

総じて、国内景気は米国の関税政策に不確定要因が残るものの、猛暑による特需や全国的な建設需要に支えられ、上向き傾向が続いた。


■TDBマクロ経済モデルに基づく日本経済見通し

2025年度の日本経済は、不確実性要因の後退もあり5年連続のプラス成長と予測

TDBマクロ経済予測モデルで求めた日本経済見通しによると、2025年度の名目GDP成長率は前年度比+3.9%、実質GDP成長率は同+0.8%となり、日本経済は小幅ながら5年連続のプラス成長になると予測される(図表2)。

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2025年度は、実質賃金と手取り収入の改善、そしてインフレ対策が個人消費に与える影響が焦点となる。AI関連の設備投資と訪日客の増加は景気の下支え要因である。他方、米国の関税措置では自動車関連の引き下げ時期の確定が急がれ、貿易取引におけるルールの明確化が不可欠となる。人手不足と物価高は引き続き重しとなり、追加利上げの時期も注視が必要だ。

個人消費の拡大には、次の三つの要素が不可欠である。

  1. 実質賃金を安定的にプラスに保つこと
  2. 将来の不安を和らげて可処分所得の「使える部分」を増やすこと
  3. 価格上昇と所得増加の好循環を維持すること

この三つを政策と企業行動の両輪で進める必要がある。

まず、可処分所得を底上げしつつ、政府は年金、医療、介護の中期見通しを明確化し、「ため込み」する動機を弱める政策の実行が求められる。また、消費者物価の上昇率は前年度比+2.7%へと鈍化すると予測されており、2026年1~3月期には実質賃金がプラスに転じる見込みだ。その結果、個人消費は前年度比+0.8%と、2年連続で増加すると予測される。

企業部門における設備投資は、トランプ関税に関する日米合意により将来の不確実性が大きく解消したことが、輸出および設備投資にとってプラス材料となる。また、人手不足に対応するための自動化・省力化にともなう設備投資の拡大が期待される。さらに、生成AIの普及や半導体の需要拡大による技術革新が成長のけん引役となるだろう。DX(デジタルトランスフォーメーション)などIT分野への投資意欲は高水準を維持しており、GX(グリーントランスフォーメーション)関連への前向きな投資も期待される。

総じて、2025年度の日本経済は、実質賃金の行方を見極めつつ、当面横ばい圏での推移が見込まれる。


■景気トピックス

猛暑特需と値上げの常態化

2025年8月の国内景気を表す景気DIは43.3となり、前月比で0.5ポイント改善して3カ月連続の回復を見せていた。しかし、判断の境目である50には達しておらず、企業マインドは依然として慎重だ。

個人消費に関する景気DIをみると、小売個人向けサービスはいずれも50を下回って推移しているが、両者の動向は異なる(図表3)。

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小売はインフレ率の鈍化と猛暑特需で持ち直しているが、依然として単価に対して数量が伸びにくい。一方、個人向けサービスは旅行や滞在型消費が支えているものの、屋外アクティビティの低調さが上昇を抑えている。季節・天候・価格の三つの要因が業態別に異なる影響を与えており、「何を・いつ・どこで売るか」の微調整が収益に直結する状況である。

食品は10月に3,024品目が値上げされ、半年ぶりの値上げラッシュとなっている※1。単純な値上げだけでは顧客離れを招く恐れがあるため、中心価格帯を守りつつ上位グレードで利益をあげる「段差設計」、内容量や仕様の最適化、セット販売などの「数量×単価×ミックス」の再設計が求められる。特に調味料・加工食品・菓子などは価格に敏感な一方で、付加価値を訴求できる余地がある。販売現場では、値上げの理由を説明するPOPやレシートメッセージ、Web表記の整備も有効だ。

※1 帝国データバンク、「『食品主要195社』価格改定動向調査-2025年10月」(2025年9月30日発表)

また、正社員の人手不足率は2025年7月時点で50.8%と高い水準が続いている※2。建設や情報サービスなどで不足が顕著で、猛暑が作業効率を下げたとの現場の声もある。人手不足は賃金上昇や外注費、納期遅延リスクを通じてコストと機会損失を拡大させるため、採用以前にピーク時の人員配置の最適化や定型業務の自動化、待ち時間と手戻りの削減など「稼働率の改善」に取り組むことが重要だ。業務を分解し、標準化し、RPAや省人機器を適用し、評価指標を更新することが必要となる。

※2 帝国データバンク、「人手不足に対する企業の動向調査(2025年7月)」(2025年8月19日発表)

個人消費の分野で成功するために必要なことは三つある。第一に、気象に応じて在庫や人員を機動的に配分することだ。需要は「気温×時間帯×立地」で大きく変動するため、飲料や氷菓・冷感寝具、塩分補給商材は天気予報と連動して前倒しで発注し、補充頻度を増やすことが重要である。

第二に、価格の設計を整えることだ。2025年7月時点で価格転嫁率は39.4%まで低下しており、コスト上昇に追いついていない※3。だからこそ「交渉の巧拙」ではなく「設計の巧拙」に発想を転換すべきであろう。原材料やエネルギーの価格と連動させた自動改定の余地を確保する、四半期ごとの改定を見積もりや契約に明記する、段差メニューで中心価格帯を守りつつ上位グレードで利益を確保する、といった「受注前の規律化」が重要となる。

※3 帝国データバンク、「価格転嫁に関する実態調査(2025年7月)」(2025年8月28日発表)

第三に、インバウンドと省人化投資を利益に変えることである。滞在型の観光需要がサービス消費を支える要因となっている。小売や飲食は多言語表示やキャッシュレス対応を整え、接客負荷を軽減し、回転率を向上させる。省人化投資は、受付無人化、画像在庫カウント、予約・順番管理、需要予測によるシフト自動割当など「待ちの削減」に直結するプロセスから始めると費用対効果が見えやすい。

当面、国内景気は実質賃金の回復度合いと秋以降の再値上げの影響を見ながら、横ばいで推移する見込みだ。中小企業が勝つカギは、(1)天候・需要の短周期変動に合わせた可動力、(2)価格と契約の設計力、(3)人手不足を補う省人化・デジタル化の実装力の三つだ。「仕入・人員・価格・契約」を見直し、四半期ごとに改定を回す運用に切り替えることで、「改善」を利益に変えることが可能となる。猛暑の影響や観光需要、関税・為替の不確実性が交錯する局面だからこそ、規律ある対応と迅速な現場実装で、収益の防波堤を築くことが大切だ。

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