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本連載では、日本企業の進出先として想定される世界各国の政経情勢などを取り上げる。第12回は、9月に政権交代となった英国を紹介する。英国経済はコロナショックをいち早く脱したように見えたが、記録的なインフレに見舞われ、景気悪化に転じている。そして、これにはEU 離脱の負の側面が影響していると考えられる。以下では、英国の高インフレの背景やトラス新政権の対応などを整理した上で、当面の見通しや注目点を指摘したい。


■ インフレの荒波の中で出航したトラス新政権

英国では、2020 年のEU 離脱(Brexit)を主導したジョンソン前首相がスキャンダルから与党・保守党内の求心力を失って辞任に追い込まれ、次期党首選で勝利したトラス前外相が9月6日に新首相に就任した。

トラス新政権は早速、厳しい経済情勢、とりわけ記録的なインフレへの対応に追われている。

英国は、他国に先駆けコロナ下での行動制限の段階的解除を進めた(2022年2月に完全解除した)ことから、2021年4~6月期から2022年1~3月期にかけて景気が回復した。しかし、その後の4~6月期の実質GDP 成長率は前期比▲0.1% とマイナス成長に転じ、7~9月期もマイナス成長が続いた可能性が高い※1。

足元の景気悪化の要因として筆頭に挙げられるのが、高インフレである。インフレ率(消費者物価の前年比)は、2021年2月の0.4% をボトムに上昇に転じると、11月には5% 台に乗せて平均名目賃金の上昇率を上回り始め、さらに2022年7月には10.1% と40年ぶりに2桁の騰勢を記録。そして、直近の8月も9.9%と高い伸びが続いている(図表1)。賃金上昇率を上回る物価の騰勢は、家計の購買力を削いで個人消費を下押ししている。また、物価安定を使命とする中央銀行(BOE)は利上げを進め、コロナ後の需要回復にブレーキをかけざるを得なくなっている。

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