金鶴食品製菓株式会社（埼玉県八潮市）は1945年に落花生の製造業者として創業。戦後の映画ブームのなか、映画館や劇場など売店に納入することで事業を拡大。現在は、ナッツ類の製造加工販売業者として安定した業況を確保している老舗業者である。同社は、DX にも積極的に取り組み、2022年６月には経済産業省から「DX 認定事業者」として認定を受けている。

そこで、代表取締役社長の金鶴友昇氏に、企業がDXを進めるうえでの課題や障害となりがちなこと、また企業がDX に取り組むうえでのポイントなどについて聞いた。

代表取締役社長　金鶴 友昇 氏

－貴社がDX に取り組もうと思ったきっかけをお聞かせください

私が2000年に入社した当時、経営の意思決定をする際には、会社の基幹データからCSV に取り出し、それをエクセルで加工したものを利用していたので、意思決定までに時間がかかっていました。

我々ナッツ業界は、自社ブランドよりもOEMブランドを手掛けていることが多く、お客さまからの細かいオーダーを元に、商品を製造することがほとんどです。

オーダーは180種類くらいのパターンがあるため非常に複雑で、かつリアルタイムに商品の在庫が変動するため、それらを調整しながら意思決定するのはなかなか大変です。

例えば商談の際に、アーモンドのオーダーが入ったとしても、他のお客さまからもオーダーが被ってしまうと、アーモンドの在庫次第では、それぞれのオーダーに対応できなくなってしまう可能性が出てきます。

従前、リアルな商品在庫はシステムを扱う人しか分からず、オーダーが確定するまでには時間がかかってしまっていました。

そのため、業務の見える化を実現するために、インターネットや社内システムのデジタル化を少しずつ進めていきました。

－ 具体的にはどのように進め、どんな効果が得られましたか

まずは、スマートフォンやタブレット端末の支給を進め、コミュニケーションツールとしてチャットを導入しました。

これによって、社員間の「聞いていない」という行き違いが無くなりました。当然、従来のツールの一つであるメールでもそうした記録を残すことはできますが、チャットだとスピード感や、文字に起こすまでの心理的な壁の高さが違います。

「聞いてない」が無くなったことで、社員の様々な面において「心理的安全性※１」が高くなりました。

チャットツール導入の効果はスピード感よりも「心理的安全性」というほうが大きかったです。

また、コミュニケーションのみならず、業務推進のうえでも効果がありました。基本的に食品製造業は、飛び込み営業を得意とするような人は少なく、伝統の味を守るように、定められた業務をきっちりやりたいという社員が多い傾向があります。そのような社員にとって、いきなりイレギュラーな案件が降ってきて、日常と違う環境に置かれることは、かなりストレスとなります。そういった場合でも例えば営業が「今、商談中で、特売で大口のお客さまから１万パック決まりそうです」とチャットに流しておけば、生産部門は、これから忙しくなりそうだな、というのが分かり、心と体制の準備ができます。

さらに、チャットを使った「情報の共有化」も強化しました。各業務や仕事の種類によってチャットルームが作られていて、誰がどの情報を持ち、どんな事象が発生するかを共有しています。それにより、社内で起こっていることは一通り把握できます。

従来は、社員→部長→社長という、下層から上層という報告フローでしたが、階層関係なく、何が起きているのかを把握できます。管理職、役員、社長にとっても情報量は増えますが「心理的安全性」が担保されます。

－ チャット導入によって、「心理的安全性」の確保をはじめ「業務効率化」「情報の共有」を実現されましたが、次のDX の段階では何をされたのでしょうか

各チームの進捗情報が把握できたうえで、やはり経営の意思決定をするうえでは「袋がどれくらい必要か」「商品在庫はどれくらいか」など、具体的な数字が必要となります。従来は、基幹システムからデータを取り出してくる必要がありました。そこで、その手間を省くために、「Looker Studio（ルッカースタジオ）」というGoogle が提供するレポート作成ツールを使って、ポータルサイトを作りました。

それによって、業務のスピードアップ、効率化に加え、今はどのラインで、どれくらい注文が入っている等が、ひと目でわかる「情報のビジュアル化」が実現しました。

また、営業・生産管理のみならず内勤部門においても、例えば人事、総務のＱ＆Ａポータルサイトを作って、育児休暇についてなど、個別の問い合わせに対応することで大幅に時間を削減できています。