近年、キャッシュレス決済はクレジットカードや電子マネーに加え、コード決済やスマートフォンによるタッチ決済の普及によって急速に存在感を高めている。
政府による普及促進策やスマートフォンの浸透、人手不足を背景とした店舗の省力化ニーズを追い風に、現金を使わない支払いは日常生活や事業活動を支える重要なインフラとして定着しつつある。経済産業省によると、2025年のキャッシュレス決済比率は58.0%に達しており、政府は将来的に80%を目指し、2030年までに65%とする中間目標を掲げて普及を後押しする。
一方で、市場の拡大にともない業界構造も変化している。クレジットカードが依然として決済額の大半を占めるなか、コード決済が急成長する一方で電子マネーは伸び悩み、決済手段ごとの競争や事業者の再編が進んでいる。また、コード決済を狙った詐欺の増加やシステム障害、加盟店手数料の負担などの課題も顕在化している。
本稿では、キャッシュレス決済の仕組みや業界の成り立ち、市場動向、主要プレイヤー、業界を取り巻く環境、今後の展望について整理する。
1.キャッシュレス決済とは
2.業界のなりたち
3.市場動向
4.主要プレイヤー
5.業界を取り巻く環境
6.課題とリスク
7.今後の展望
8.関連法規
9.関連団体
キャッシュレス決済とは、紙幣や硬貨を用いず、カードやスマートフォンなどを介して商取引の対価を支払う決済手段の総称である。決済方法は支払いのタイミングによって、事前にチャージした残高を使う「前払い型(プリペイド)」、銀行口座と直結する「即時払い型(デビット)」、利用後にまとめて請求される「後払い型(ポストペイ)」の三つに大別される。
決済手段の種類は、クレジットカードやデビットカードに加えて、コード決済、電子マネーなどが挙げられる。
コード決済は、スマートフォンの画面に表示した二次元コードを店舗側が読み取る方式と、店舗が提示した二次元コードを利用者がスマートフォンで読み取る方式がある。支払いの原資はアプリ内のチャージ残高、連携した銀行口座、クレジットカードなど事業者によって異なる。
電子マネーは、SuicaやPASMOに代表される「交通系」、WAONやnanacoに代表される「流通系」のように、ICチップに金額情報を記録するプリペイド型が主流である。また、iD・QUICPayは、電子マネーと同じ非接触通信規格(FeliCa)を利用した決済サービスで、紐づけたクレジットカードに利用額が請求されるポストペイ型のほか、デビット型やプリペイド型に対応するものもある。iDはNTTドコモ・フィナンシャルグループ、QUICPayはJCBが運営している。
一方、クレジットカードのタッチ決済は、VisaやMastercardなどの国際ブランドが採用するNFC Type A/B規格を使い、カード本体やスマートフォンを読み取り機にかざして決済する方式で、iD・QUICPayとは通信規格も運営主体も異なる。利用者から見るとどれも「かざすだけ」で似て見えるが、支払時期や資金の流れ、店舗側が導入すべき決済網は異なる点に注意が必要となる。
こうした決済手段を店頭で受け付けるには、読み取り機である決済端末と、決済端末と各決済ブランドの処理センターを仲介する決済代行サービス(決済ゲートウェイ)が必要になる。決済に関わる主体は、支払う消費者、代金を受け取る加盟店、コード決済事業者や電子マネー発行会社などの決済サービス提供者、加盟店契約や資金の授受を仲介する決済代行事業者、そして最終的な資金移動を担う銀行・資金移動業者に整理できる。