TDB REPORT ONLINE

2019年4月1日、働き方改革関連法が施行される。企業には、労働基準法への対応を中心とした「長時間労働の是正」などの労務管理の見直しのほか、雇用形態にとらわれない、いわゆる「同一労働同一賃金」といった公平な待遇確保の取り組みなどが求められている。2019年4月の施行は主に大企業向けといわれるが、中小企業においても「1人1年あたり5日間の年次有給休暇取得の義務化」や「労働時間の把握」などの対応が求められており、待ったなしの状況である。

しかし、働き方改革に対し、「人手が足りない」、「取り組んでも負担になるだけで、メリットはあるのか」といった点で不安や疑問をもち、取り組みを進めることができない企業もみられる。ここでは、帝国データバンクが実施した各調査や取材などをもとに、中小企業を中心とした働き方改革の現状および取り組みのポイントを考察した。

1 働き方改革とはなにか

2019年4月の「働き方改革関連法」の施行がいよいよ近づいてきた。2018年10月時点で残り6ヵ月を切り、これから準備を進める企業は急ピッチでの対応が求められる。「働き方改革」という言葉は、2017年の新語・流行語大賞にもノミネートされるなど、ビジネスや企業のみならず、いまや社会に広く浸透している。また、働き方改革関連法案の成立にあたっては、いわゆる高プロ(高度プロフェッショナル制度=労働時間規制適用除外制度)に関する報道などで注目が集まったことも記憶に新しい。

働き方改革の概要をみると、基本的な考え方を示す「基本方針」には、「働き方改革は、働き手が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で選択できるようにするための改革」と示されている。さらに、その取り組みを推進するためのポイントは「労働時間法制の見直し」と「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」に分けることができる。

法案成立の背景のひとつが少子高齢化にともなう生産年齢人口の減少である。帝国データバンク(以下、TDB)が定期的に実施している「TDB景気動向調査」「人手不足に対する企業の動向調査」によると、企業の人手不足はいっそう深刻化している状況がわかる。

1-1_図表1.JPG

生産年齢人口は今後も減少傾向が続くとみられるため、従来の採用活動や人事制度では、人材の確保・育成などに限界が生じかねない。企業が成長を続けていくためには、多様な人材が活躍できる組織へと変わることが求められている。

他方、働き手側のライフステージの変化や置かれた状況によって、柔軟な働き方に対するニーズは、今後ますます高まっていくことが予想される。特に近年は、長時間労働による過労死などの労働災害が大企業でも相次ぎ、社会問題となった。また、従業員の健康管理を経営的な視点でとらえ、投資を行う「健康経営」も注目されるようになっている。そのようななか、企業が従業員の働き方を見直し、改善していくことは、優秀な人材の確保だけにとどまらず、業績向上につながるという考え方が広まりつつある。

働き方改革関連法は、2019年4月から施行される。中小企業では2020年4月以降に対象となる項目も多い。だが、「1人1年あたり5日間の年次有給休暇の取得義務付け(企業側からの働きかけ)」、「労働時間の把握の実効性確保」、「産業医・産業保健機能の強化」などは、企業規模を問わず2019年4月から求められるため、未実施の企業は早急に準備が必要となる。

2 働き方改革の取り組み状況

こうしたなか、企業による「働き方改革」への取り組みは、現状どうなっているのか。TDB は2018年8月に「働き方改革に対する企業の意識調査」を実施した。それによると、働き方改革への取り組み状況について、「取り組んでいる」と回答した企業は約4割(37.5%)、「現在は取り組んでいないが、今後取り組む予定」(25.6%)と合わせると、企業の6割超(63.1%)が取り組みに前向きな姿勢を示している。

しかし、一方では、約2割(17.7%)の企業が「以前取り組んでいたが、現在は取り組んでいない」、「取り組む予定はない」と回答。その理由として必要性や効果への疑問、人手不足、推進人材の不足などが上位に挙がっており、特に、従業員規模が小さくなるほど、「取り組む予定はない」企業の割合が高いという現状がみられる。

また、政府が主導する「中小企業・小規模事業者の長時間労働是正・生産性向上と人材確保に関するワーキンググループ」においても、事業者が抱える不安や問題点として人手不足が挙げられている。そのほかには、短納期受注への対応、特定の時期の集中、過度なジャストインタイムなど、「商慣行」や「繁忙期」によるしわ寄せが取り組みの障害として挙がっている点も見過ごせない。

3 働き方改革を推進するうえでのポイント

中小企業が働き方改革を進めるにあたっては、このように課題も多い。だが、「推進企業の取組内容・方法を参考にすること」や「外部機関を活用すること」で、より効果的・効率的な取り組みを行うことができるのではないだろうか。今回、TDB では、先述の「働き方改革に対する企業の意識調査」に加えて、多様な人材の働き方を推進している428社から働き方改革を推進する目的や現在の取り組み項目と今後、取り組む予定の項目などについて回答を得た。

その結果は、中小企業の「働き方改革」の取り組みに関する調査にてまとめている。現状の動向把握と合わせて、まずはこちらに目を通し、同業他社や同規模企業、地域企業などが、働き方改革をどう捉え、具体的にどのような取り組みを行っているのかを参考にしていただきたい。

また、取材では「特に中小企業では大企業にはない機動的・特徴的な取り組みが可能となることも多い」(厚生労働省 労働基準局労働条件政策課 課長補佐 高橋亮氏)、「従業員が働きやすい体制を社内の業務の範囲内でできるだけ整えることが、中小企業だからこその柔軟性であり、経営者の役目」(第一資料印刷株式会社 代表取締役社長 江曽政英氏)といったように、働き方改革に取り組むにあたり、中小企業であることのメリットも聞かれた。

これらをふまえて、TDB REPORTでは、今回の取材や調査などを通じて、働き方改革を推進するうえでのポイントを4つ挙げ、以下にまとめた。

① 働き方改革は、従業員のモチベーション向上があってこそ

まず1つ目は、働き方改革は、「従業員のモチベーション向上」につながる取り組みでなければならないという点である。

TDB の調査でも、働き方改革に取り組む目的としてこの項目がトップに挙がっており、その重要性を理解している企業は多い。そしてそのためには、取り組みが法対応のためだけの制度導入や労働時間の削減・残業時間の削減といった形だけを追うものになってはならない。

1-1_図表2.JPG

「初めからリターンを期待して行うのではなく、経費をかけ、働きやすい職場をまずは作り上げていく」(向洋電機土木株式会社 代表取締役社長 倉澤俊郎氏)といったように、働き方改革による効果が出てくるまでには相応の時間がかかる。

そうした取り組みを進めるなかで、従業員との信頼関係を強めていくことが、結果として従業員のモチベーションや仕事のパフォーマンス、ひいては企業の業績向上につながると捉えることが大切である。

② 働き方改革への理解や意識の改善、風土作りを行うこと

2つ目は、取り組みを進めていくうえでの心構えを社内で共有することである。特に、中小企業では、経営者が率先垂範することは、働き方改革の導入から定着にあたって強い推進力となる。また、現場のリーダーであるマネジャー層と従業員の理解を得ることや意識の改善を図ることは、先述の①にもつながる。

「働き方改革」推進企業リストに掲載している428社をみても、「朝礼・研修などでの職場風土づくり・意識の改善、コミュニケーションの活性化」に現在、取り組んでいる企業は約7割(69.2%)に及んでいる。このように、社内で推進していく風土を作っていくことは働き方改革の成功のポイントといってもよいだろう。

③ 業務の改善、見直しを意識すること

3つ目は、意識だけでなく実際の業務にメスを入れることである。既存の方法が正しいのか、そもそも行う必要があるのか、省力化ができないのかなど、日頃行っている業務の改善を意識し、図っていくことは、労働時間の削減と生産性向上という点でも働き方改革の取り組みのカギになっている。今回、インタビューに応じていただいた2社は、近年注目されている働き方のひとつであるテレワークを早くから導入している。

これについては、日本テレワーク協会に中小企業がテレワークを導入するうえでのポイントを伺い別にまとめている。中小企業でのテレワーク導入はまだまだ少ないが、今後の多様な働き方や環境づくりの参考になるだろう。

④ 外部(取引先や提携先など)との協力や相談窓口を活用すること

最後の4つ目は、外部との協力関係の構築と支援機関など相談窓口の活用である(図表3)。

1-1_図表3.JPG

取引先との関係のなかで、働き方改革に取り組むことの難しさは上でも取り上げたが、2018年5月には、公正取引委員会が「働き方改革に関連して生じ得る中小企業等に対する不当な行為の事例」を公表しているので、それらを把握しておくことが望ましい。そのほかにも、各省庁や支援機関が様々な情報提供を行っているので、そこで他社の先行・成功事例などを参考にするのも効果的である。

そのほか、全国には働き方改革の支援拠点である「働き方改革推進支援センター」が設置されている。自社で解決ができない場合には第三者の視点や意見を積極的に活用していくことが有用である。

働き方改革に取り組むにあたってのポイント

  1. 働き方改革は、従業員のモチベーション向上があってこそ
  2. 働き方改革への理解や意識の改善、風土作りを行うこと
  3. 業務の改善、見直しを意識すること
  4. 外部(取引先や提携先など)との協力や相談窓口を活用すること

関連記事